コンテナガレージ

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私は猫に石を投げるでしょう3-1

地上→四F

 三代目。買い換えたばかりの新車を修理に送り出し、代車を運転した出勤に、武本タケルは嫌気がさす。国産車に買い換えようか、と彼は悩んでいた。ただ、国産の車に乗りたくはない。散々迷うが、もう少しだけ車の帰還を待つことに結論は落ち着いた。

 仕事場には日に二度、車を走らせる決まりだった。早朝と夕方。二回に分けて朝を作るという気分で一日に二件の仕事をこなしている。通常、デザインの仕事は一日、一件の処理であるが、武本の場合は能力の高さと彼個人に名指しで寄せられる仕事、二つの案件の処理が会社側から求められ、しかも仕事をこともなげに、軽くあしらうようにこなしてしまっていた。彼が車に惜しげもなく資金を注ぎ込める要因には特殊な仕事の報酬がもたらされる、そういった一面が関係している。もちろん、これは会社ではかなり特殊な例であり、彼のように通常の案件をこなす人物は限られた人種に属し、なおかつ個人的に名が売れた者はほとんどが独立を果たすので、より希少性が高まる。

 しかしながら、武本はそういった独立時に発生する仕事以外の処理を先延ばしに、取り組みを拒んでいる。すべてを一人でこなすタイプの彼は、一日の貴重な業務時間を独立の準備に奪われる環境の変化への対応を避けるのだった。表現を変えると、ゆとりある現在を最上に捉える、ということだろう。私が自分なりに客観的な分析を敢行すれば、このような説明が妥当だろう。

 あえて、人事のように話すと、隠れた見たくない部分や見えていなかった盲点がひょっこり姿を現すことを直感的に知っているので、会社に着くまでの時間をこういった観測にあてる。

 服装はシャツにジーンズ、上着はジャケット。私には一人の席があてがわれている、他の社員は同一のフロアで仕事をしていて、私は個室の仕事場。個人的な案件を抱えての仕事だから、たとえ上司の私にでも、気安く行き詰る点を尋ねることはできないのだ。しかし、かなり切迫した場合においては日に一度、担当の上司に助けを求めることが可能だ。主に歳とキャリアの近い人物が担当官に任命される、武本も例外ではなく、一人の後輩を担当しているが、これまで頼られた経験は一度だけ。相談相手の後輩は自分の思うように対応してよいのか、という自尊心の塊のような人物だったので、思うようにやったらいいと一言返し、現在まで会社では顔を会わせることも、存在を思い出すこともなかったように思う。

 早速たわいもなく、くだらない事象を切り捨て、席に着いた私は仕事に取り掛かる。メールを開いて、二件の優先順位を決める。