コンテナガレージ

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手紙とは本心を伝えるデバイスである4-1

 安藤アルキと武本タケルの発言には矛盾点が生じていた。熊田は出会った直後の二人の会話一切触れていない。互いに知らないことを匂わせていた二人が、十分も無言だったのは考えにくい。いくら口下手な人種であっても意思疎通のリターンは数回往復した。それに会議出席の人数の少なさにも異常性が見られる。偶然が引き起こしたのかもしれない。しかし、社長が時間を割くのに三名というのはいささか少なすぎはしないだろうか。 

 熊田はトイレから出ると、セルフサービスのコーヒーをカップに注ぐ。並々ついでこぼさないように窓際の席まで、膝の振動を与えないように運んだ。安藤は思ったとおり姿を消していた。席に着いて、外を眺めつつ、思考を再開。誰が殺したのだろうか。室内は密室に近い、ほぼ密室といえる。監視カメラは室内には設置されていない。エレベーター内部はついているように思う……、後で確認することにしよう。

 とりあえず、カメラ未設置の状態における捜査を考えてみる。まず、人の出入りは二箇所に制限されていた、廊下に通じるドアと会議室へのドア。どちらも内部からは自由に開けられ、反対に外から開けるためには廊下のドアは認証システムと指紋認証の両方が必要で、会議室のドアは認証システムの時間登録が必要であった。このドアはエレベーターを降り、廊下の角を曲がったすぐのドアを指していて、社長室へ繋がる会議室のドアは社長、あるいは社長室内の人物が認証を許可する必要があった。するとだ、社長が死ぬ前にドアを開けていたら、殺害後に開錠したドアから外へ出られただろうか?無理だ。開いたドア自体の重さによって自動的に閉まる仕組み、障害物を解していれば、開いたままであると思うが、セキュリティが何らかの反応、警告を示しているはずだ。さらに、ドアは閉めると自動でロックがかかる仕組み。

 テンポ良く頭が働かない。

 死体発見時のドアの開いていた理由。

 熊田は首を振って、思考を断ち切り、休息に切り替えた。軽く深呼吸。

 食堂内を何気なく観察した。等間隔で席に着く社員の姿、昼食時間もばらばらなようで、夕方に近い時間帯でも食事を摂る人が多い。喫煙室も大盛況だ。満杯とはまでいかないまでも、取りきれない煙が溢れていた。そちらにはもう少し人数が減ってから、乗り込むとしよう。

 それにしても、応援はまだだろうか。種田たちの事ではなくて、熊田はS市に要請した鑑識のことを言ってるのだ。そろそろ遺体の解剖初見が知りたい。

 しかしだ。どうやって犯人は中に入ったのだろう。考えが引き戻る。

 勝手に意識が事件に戻ってしまった。