鍵が開いていた事実も二人の証言によるもので、もしかすると彼ら三人の誰か、あるいは三名ともが共謀して、社長を殺害し、第一発見者を装ったかもしれない。だが、その場合は殺害後に施錠を解除しなくてはならない。廊下側のドアは外側からでは指紋登録とフロアの時間認証が必要になる、社は廊下側のドアは開いていたと証言。しかし、可能性はあるにはある。死体の指紋をあらかじめ、これは生前でも死後でもいいが、採取を行う。そしてドアレバーの認証機にかけて施錠を行う。いいやダメだ。指紋登録には簡易なものであっても当人の記録が残すカメラやセンサーの類がついているはずだ、未確認ではあるが、おそらくはついているだろう。採取した指紋と社員を成りすましたフロア登録によって侵入が許される脆弱な機構を採用するわけがない。
ドアの開錠が可能だった場合は、とってつけた説明ばかりが浮かんでしまう。
端末ポケットで震えた。熊田は取り出して耳に当てた、聞き取りにくい、背後の騒音がひどい。
「種田です」
「状況は?」
「芳しくありません。復旧は確実に今日以降が予測されます。残された脇道への車の誘導に現在はかかりっきり。当分現場を離れられない状況です」
「そうか。鑑識の応援要請はしたんだな?」
「はい、先ほどの連絡後に」
「わかった。こちらは一人で何とか対処する」
「殺人ですか?」
「そうだ」
「助けが必要ならば、私だけでも向かいます」
「必要ない」
「必要な時は正直に求めるべきです」
「いらないといっている」
「鈴木さんではなく、私が行くといっているのです」
「同じだ」
「いいえ」
「切るぞ」
「私は不要ですか?」
「捜査は一人で十分だ」
「……そうですか。それでは」
本心を見せたがらない人物、あえて見せ付ける人物、そして依然としてその姿すら見せない人物。誰がどこにいたのか、どのような経路と動機で社長室に姿を見せたのか。もう一度、見直す必要がありそうだ。
熊田は大きく伸びをして、体を仰け反らせた。