コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

まずは、物事の始まりから1-2

 交差点を二つほど、通り過ぎてビルが一気に低層に変わり、また空き地が増えて、遠くまで見渡せる景色に出くわす。すると、右手の一角、かなりの土地をこれまでのビルをはるかにしのぐ聳える高いビルを筆頭にそれらを囲む二棟とはなれた低層のビルが、視界に占有する。

「あそこか?」熊田は追いついた種田に訊いた。信号待ちの交差点である。

「はい、最短のルートは真正面の入り口、藍色のオブジェが道の中央に飾られています」端末に落とした視線は熊田には向けられない、彼女は目を見て話すという習慣を持たない人物、熊田も特別指摘はしない。目を見て話さなくとも意思は介在、しかも自分にとっては見つめ合う行動で意思疎通の速度が若干落ちると、熊田は感じるのだ。目を見て話さなくてはならない状況では仕方なく、処理速度をあらかじめ下げて応じる構えを取る。速度低下を感じない分、スムーズに受け答えが可能となる。

 青川セントラルヤードという名称がつけられた区域の側道を歩く。切り込まれた真四角の植物はもうすっかり植物としての息吹が失われ、飼いならされた番犬みたいだ。どこをとっても画一的。二人はしばらく入り口を探して直進、思えば駅からはずっと一本道を歩いていた。

「ここです」先を行きすぎて、種田に止められる。墓石のような足元の低い位置、光を反射する磨かれた石に英単語がずらりと並び浮き出る文字のところがが、どうやら正面入り口らしい。種田の案内に従い、熊田は色の変わる床に足を踏み入れた。

 親子連れとすれ違う。先日、珍しく定時に帰宅したその日に妹が子どもを連れてやって来ていた。今日もまだ、家にいる。空いている部屋が余分だからという、意味のわからない文句を言って、数日間居座ってる。子どもは二人。小学一年と四年の女の子。まだ春休みではなく、休日を利用したのだそうだが。今日は火曜日。昨日はインフルエンザで学校閉鎖になったらしく、急遽滞在を伸ばす方向で妹は勝手に話しを私に承諾させていた。

 旦那と喧嘩をしたのだ。表向きは何も言ってこないが、帰省とは異なる荷物の多さ、家を出た覚悟に間違いはないだろう。正直面倒である。妹であっても顔をあわせて話をするのは数年ぶりのこと、互いに老けたという言葉が第一声であった。