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重いと外に引っ張られる 3-4

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「確かめたい?」
「残ったのは、私、ここにいる種田、最初に駆けつけた警官と次に来た鈴木という刑事の4人です。私が乗ってきた車の運転席にカメラを仕掛けました。鑑識から借りたものです。運転席のハンドルとフロントガラスの間です、前方が映る場所に設置し、制服警官を除く3人はトンネルに入りました。警官は見張り役ですから、入り口そでで立っているのが通常の業務です。しかし、署に帰り撮った映像を見てみると、警官が怪しい動きをしていたのです」
 熊田たちが現場から立ち去った後、見張り警官の交代時間を過ぎてから現場に戻ってきた鑑識の一人がトンネル脇で遺体の体表面から検出されたエンジンオイルと同質の液体を発見、採取していた。映像から警官が制服の下からホースのようなものを伸ばして草むらに何かを流している様子が確認されたのである。この事実を知っている人物は鑑識の一人と神に、熊田だけであった。種田にも知らされてはいなかったので、ここで初耳となる。種田はあの時の熊田の行動に隠された真意を初めて知ったのである。種田は微笑を浮かべる。本当に面白い時とは得てして、声などは出ないものだ。驚いた時も同様である。笑い声や叫び声はある程度の余力あるいは予見されない限りは発せられない。
「あの警察の人が犯人なのですか?」その場が色めき立つ。自分への疑いで訪れたのではないと思い込んで、佐田あさ美は前のめりになり、探究心の旺盛な出版社の社員としての嗅覚が働き出した。
「関わりは十分に考えられます。ただ、あなたの容疑が晴れたわけではないのでその点は覚えておいてください」
「だから、私じゃあないって言ってるじゃないですか!」
「隠している事実をお話ししてくれた方が再度、訪れる必要もあなたの忙しそうな顔を見るのも一度で済みます。あの道を選ばれた理由をお聞かせください」急所を突いた種田の発言に、勢いを増しそうになった佐田の動きが停止。ソファに深く腰掛けて、ため息。冷めたコーヒーを口に運ぶ。「事件には関与がみられないと判断するのはこちら側、警察の役目でして、それがあなたの見解、認識からだけで犯人でもない、関わりもないといっても筋が通らない。客観的な事実が誰の目からもそれは真実であり、疑いがないと証明されるための唯一の方策ですよ」
「誰にも言わないって約束できますか?ここの人たちにも言わないと言い切れますか?」彼女は二人に意識を込めた瞳で約束を要求してきた。二人はそれぞれに頷く。「あの近くに、実家があります。もう家を出てから10年ほどです。私の父は殺人を犯し今も服役中です。そのおかげで散々な目にあってきましたから、あの悪夢を忘れたられたのもつい最近のことです。家は高校卒業と同時に出ました。大学は家からも通える距離でしたが、マスコミやらの追い回しでとても生活出来る環境ではなく、私は逃げるように一人暮らしを始めたのです。でも、家には当時中学生だった妹がいて、妹の存在は忘れるようにと母親から諭されていました。人のことにかまけていては精神が持たないと悟ったのでしょうね、妹が18の時に……母は亡くなりました。父親が刑務所に入るのは不可抗力かもしれないけど、母が死んだのは私のせいだと妹は思っています。それから、妹とは会っていません。この仕事をはじめるようになってからも、何度か、妹の様子を見には来ていたんですが家を捨てた人には会ってもくれず、道の前を通りすぎるのがやっとでしたので、それがあの道を選んだ理由です」