コンテナガレージ

仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

ただただ呆然、つぎつぎ唖然 3

丸い。印象を一言で表したら、たぶん適切だと、共感を得られる。キクラ・ミツキは、球体の内部をのっそりと警戒心を肌に貼り付ける、腰はわずかにかがみ、両手指は迅速な対処に供えて等間隔で隣の指と距離をとる。
 レストランの一風景、と形容していいものだろうか、彼女のいくつかが首をかしげた。地下空間という位置づけだったけれど、階段を下りた高さはせいぜい五メートルが限度だった……、にもかかわらずラウンドした球体の内側そのものである天井はサッカー場や野球場で出くわす高度であった。威圧と圧迫から窮屈さを取り除いた、そんな胸を軽く指先程度、空間の存在を教えている主張だった。
 もう一点の驚きが、私の視線の直線状に垂直不動で立ち、左ひじは白いナプキンをかける、灰色の頭髪を後部にふんわり撫で付けた、まさに執事が、不適にそして程よい緊張をにじませて向かえていた。声をかけようとしていた、数秒前を彼女は呪った。気分とは移ろいやすい、忌み嫌う存在パターンに自分が成り下がったことを即座に反省した。
 おずおず、距離を詰めた。人形かもしれない、よぎった予測はわずかに動く瞬きによって掻き消える。フクロウみたい、ミツキは思った。
「三分と二十一秒」執事は手首の内側を見た。「ずいぶん、慎重な性格でいらっしゃいます。お坊ちゃまとは正反対でしょうか」顔全体に皺が広がる。隠してたのか、彼女は緊張しつつも表情の変化に気を留めた。
「あの人、そのお坊ちゃまに会いたいんです、会わせてください」こわばりを私は勢いで取り除く。
 気がつかなかったが、執事の真後ろには食事を運ぶための台車があった。花柄のティーポット、同じ柄のティーカップにソーサー、スプーンの柄はライオンだろうか、室内が白一色にまとめたので光が飛んでうまく見えない。
「キクラ・ミツキ様でいらっしゃいますね?」執事のトーンが上がる、あわせて白く太い眉も引きあがった。ミツキの背筋が反射的にびりっと伸びた。「あなた様の席でございます。お掛けになって、ただいま紅茶をご用意しますので」
「あ、あのう」
 一瞥。強さに加えて丸め込む意思が執事の瞳が訴えた。ミツキは、従った。薄いピンクの座面にそっと腰を下ろす。幽霊の裾みたいなテーブルクロスはアシンメトリーにひだを伴って、床を手を結びたがっていた。視線を執事に戻す、はたしてこの人の敬称は執事でいいのだろうか、彼女は太ももをせわしなくさする。
 とりあえず、お茶が振舞われるまで、待つことに決めた。焦っても、そうだ、急がば回れというやつだ。手がかりはどう転んでも、逆立ちしても、ポケットを這い出してそこにあったのかと、姿をくらましたいつかの相棒に呼びかけたりはしないんだ。
 茶色、琥珀、というのか、ミツキはお茶とは縁遠い。あったかいやつはたまにのむけれど、それだって缶の製品が大半だろう。もっと小さいときに飲んだ記憶はかすかに残ってはいるか、ただあの時は私の意志に任せて摂取していたのではないのだ。