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至深な深紫、実態は浅膚 5

「ほほう。それはまた思い切った演出ですね」

「演出に普通も奇抜もありません」

「トリックメーカーですよっ、不破さん」土井が半ば怒ったように言った。彼はどうやらアイラ・クズミのファンらしい。トリックメーカー、呼ばれ方は登場する度に風貌が変わる、と言われているからだった。ちなみに、私自身その意識はまったくない、それに化粧や衣装はほぼ同一に固定した、形と色に割合気を使っているぐらい。精査を取るためである。印象の異なる受け取り方は、私にあまり興味がない連中の判断、と彼女は理解する。

「手品でもするのか?」不破は正直に受け取る。

「存在がですね、毎回異なった人物と入れ替わったみたいに印象が異なるんです」

「出入り口が気にかかるのですか?」不毛な会話だった、分断した。アイラは情報を求める。「そもそも死体の女性は、ライブの直後に亡くなったのではありませんよね?」

「あなたが別の経路を使い、ホールに辿り着いた」不破は言う。微笑を浮かべる、頬に縦の深い皺が刻まれる。若いうちは優しげな皺、老いぼれてしまうとそれは年輪に形態が変わる、原材料は一緒のはずなのに。

 死体は密室で発見した、しかし警察が捜索を続ける未発見の経路を私が辿って午後の観客がひしめくホール内に登場したのではないのか、彼が言うのはそういった意味だろう。不破が続けて話す。「殺害の場面か、殺害直後を犯人は目撃された。隣の文化財、瓦屋根の家屋の管理人です。家屋のさらに隣に自宅があります。代々管理を任される家系で、現在の当主である阿倍広方さんは毎夜、午後十時から十一時に家屋とこの記念館を見回るそうで、昨日は十一時頃、二階を見回って降りてきて、一階の物音と人の気配に気がついたと、証言してます」不破は窓から屋外に降りた、コンクリートの足元は地続きで頭上の棚と一体化してる、吸い付く冷たい柱から丸みを帯びた月が見えた。

 彼は振り返って、続ける。「犯人らしき人物が女性の傍らに立つ光景が見て取れたそうです、電気はついていました。ホール内は見てのとおり、内部の明かりはこの窓ぐらいで、明り取りの窓もあるにはありますが、どうぞこちらへ」アイラとカワニは外に出た。パーゴラの支柱を除ける、庭まで下がって見上げた。不破が言う。

「そこが二階の窓。どうです、室内の明かりは判断しにくくはありませんか?」