コンテナガレージ

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仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

黄色は酸味、橙ときに甘味 7

 まだお客が、敷地を出た通りで待ち構えている、とのカワニの忠告。双眼鏡やカメラで出て来るところを狙っているらしいが、屋外はもう真っ暗であった。通り、外灯の明かりの近辺にいたのでは、暗い産業会館の様子は見えないことを学習していないのか。何度かスタイリストのアキの出入りで歓声が上がった事態から予測するに、それらしい人物を手当たり次第に呼びかけている、と考えられる。非効率な応対だ。

 石段を降りる、最上段と中段と地上高に足元を照らす明かりが置かれる。顔まではしかしこれでも路上のお客とアイラを結ぶ直線距離は約三百メートルを要する、深夜十時の視界は真っ暗闇と同等だろう。声を掛けられても、手は振らないと決めた。別れを惜しんでもいないのに、軽々しい無意味な挨拶はうんざり。

 アイラがバンに乗り込むと、窓が叩かれた。

「なにか?」

「出発まで少々時間をもてあましてはいませんか?」刑事の不破である。開演前に別れたきり、姿は見えなかった。

「気遣いのできる方は、ライブ直後の歌手に暇を見出すとは思えない」

「とりあえず、話しを聞くだけで結構ですから」不破は了解を得ないまま、車両を回り込み、ずうずうしく隣に乗り込んだ。バンのエンジンは切ってある、私は寒さに強い。密閉した空間で固着した状態を続けると眠気が襲うことは身に染みている、それから温かさも眠気を優位に働かせてしまう。ホテルに戻る前に数分でも眠ってしまっては、経験上ベッドでは目が冴えてしまう。カワニにはアキの乗車時点で暖房を入れるようにと、私に伝えていた。不破は寒そうだった、コートに隠れた太ももをさする仕草をアイラは素知らぬふり。不親切という行動や周囲への低認知を要因とする精神的疾患は私に当てはまりはしない、それどころか正しい認識として広く市民の意見を勝ち得るだろう。