コンテナガレージ

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赤が染色、変色 2

 子供ほどの女性歌手に入れ込む姿に、明らかに不審めいた夫の態度と距離。始まりは、数ヶ月前に訪れたライブハウスの定期公演だった、娘の付き添いで歌う姿に惚れ込んだ。同世代の関心は海外の若い男性、アジア系の歌手や役者だけれど、これまでそういったあこがれの対象は私には縁遠く、実生活を正面から受け止められず、履き違えた娯楽に興じる、逸脱した羨望と思っていた。それが、まさか、あろうことか……この私がのめり込むとは、思ってもみない、初めての経験だった。

 木目の美しいギターを手に、赤いストラップの幾何学模様、オレンジの照明に照らされたアイラの素顔。地下室、埃の浮流、歌声はあらゆる物質を振るわせた。私の軸も揺り動かすの、内部を伝って、外へ出て、彼女に還った。震えた。涙が出た、胸が張り裂けて、縫い合わされた。娘の方が私を案じた、あの時は心配をかけた。だからライブは私一人で通う、定期的なライブ会場の東京へと足繁く通う。文句は言わせない、娘は二十歳を越えた大学生で東京に住む、それに飛行機代はピアノ講師としての自宅を開放した仕事から捻出してるし、夫に文句を言われる筋合いがあってたまるものかって、でも面と向った発言は控える松田三葉である。 

 十月の第四週、木曜日にアイラと地元九州で向かい合えるとは思ってもみない吉報、それを聞いたときには意地でも大金を支払っても、スケジュールだって生徒や夫に悪いとは思っても、調節に余念はなかったはず。とはいえ、木曜のレッスンは高校生相手のためここ一年は空きっぱなしであった。もう高校に通いながら音楽を志す生徒は少ない。中学、それも二年生の夏休みでピアノを離れる。私の頃とはって比べるのはまったくナンセンス、状況が違いすぎるのよ、皆片手間で遊べる時期を私たちの時代よりかはシビアに捉えてる。

 比べてるのかな、これも。

 松田三葉はまじまじ、手にしたチケットを眺める。

 あの出会いの、私たちのゆるぎないひと時を頬を緩ませた顔で思い出していた。