コンテナガレージ

仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

熊熊熊掌~ゆうゆうゆうしょう 3

 開店時刻は午前十一時から午後九時迄。九時以降の入店は控えること、お客様たっての願いであろうと毅然と拒否の態度を示すよう注意を受けた、長居に対する一応の理解は得ているようだ。お客の自主的な行動に軽く依存した緩やかにも規則を、これが慣例であるのか。山城はカウンターに入るようジェスチャーを送った。器具はどれを使っても構わないが、使用後の掃除は必ず行ってください、必ずです。念を押された、ホテルの備品という意識を持てということなのだろう。棚の最下段に置かれたエスプレッソマシンと目する銀色に直方体のフォルムが人目を引く、段が広く取られ蒸気を逃がす工夫が垣間見えた、『惹きつける目玉』は設計段階で満場一致を得た、ということか。美弥都は明け渡されたカウンターに入り、取り揃えられた機材の各種を確かめて早口な山城の説明を聞き流す、彼女はそれでも覚えていられる奇態な学習能力を備える。一度聞けば十分、一生は覚えていられ記憶をとどめる処理を施せば取り出すことは造作もない。天才、と過去に名声を得られそうなって彼女はその能力のほとんどを意識的に開放を跳ね付け、封じ込めた。それはまた別の話である。
 『ひかりやかた』が取り揃えたビン瓶詰めのコーヒー豆は使用不使用を私に一任する。来週に迫る再開に間に合うよう手は尽くす、このほかに入用な豆があれば店長の提携先のコーヒー豆卸元『イイダ珈琲』と契約を結んだ、品質と量の心配はないとのこと。カップ・オブ・エクセレンス(COE:年二回開催の選定審査会)が認めた高評価とそれに呼応する価格上昇著しい希少種などがとり揃った宝石がしまわれる夢のような棚に不平を漏らす、店主はあからさまに首を傾げていた。カウンターには美弥都が立つのだからと、肩を竦め、推測を放棄、手持ち無沙汰の両手はスツールの背もたれに。
 美弥都はひとつ提案をした。
 ごく限られた種類の豆を使用したい。許可はすぐに得られた。ただし、提供品は一定の基準を上回ってなくてはならない。舌の肥えた富裕層が連日押し寄せる、彼らの評価は今後の経営を左右する。