コンテナガレージ

仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

二回目公演終了後 ハイグレードエコノミーフロア 飛行機・機内・入れ替わり

「……もしも」田丸は言葉を体内で反芻、確かめて伝えた。「アイラさんのように私たち客室乗務員がお客様の顔、今日搭乗された方々の顔を覚えていたとしたら、その、入れ替わったお客様を見つけられかも」つまり、客席の乗客が殺され死体に姿を変えられた。代わりに別の人間が席に着くという言い分。
「客席は全席、搭乗者分の席が埋まる。入れ替わる分の席が現在、あなたの意見を補完するには、席がひとつ空いていなくてはならない。そのような席は存在しない」
「おかしなことを聞いてしまって、申し訳ありませんっ、あっと、お客様すいませーん。お待たせしました、どうぞ。あのお二方、お飲み物はいかがいたしますか?」
 コーヒーを頼んだ。受け取りまでに食事を片付けた。
 映像は不鮮明に現実を離れる、
 コーヒーが唯一いつもの異なる酸味とコクを教える。
 出入り可能な荷物棚。
 目撃される可能性を秘めたハイグレードエコノミーフロアへの侵入と退出。
 余分な搭乗客または死体。
 殺害の動機や殺害方法に死因。
 他殺、自殺。
 わざと機内を死体の発覚場所に選んだ、とは考えられないだろうか、アイラは下げてもらうトレーからコーヒーを残し考察を続けた。航空会社の職員たちの手の込んだお芝居、その線もかろうじてではあるが残されるし、アメリカ到着までは残り八から九時間を要する。それまでに壮大な嘘を打ち明ける機会をどこかで計っていたら、背筋が凍るな。死体のほうが人として、かつての人間としてであっても、私はそちら側の人間でありたい。 
 付き纏う「死」から一生逃れられない運命に私は生きるのかも。最近特に事件というこれまでは他人事の体験を何度も経験してしまう。歳が歳なら厄を払いに高額な料金を支払うのだろう。払って払うか。
 死。
 生物としては理想だろう。本望だ、そこへ向かって何もかもが時間を進める、平等だ、こんな世界でも。 
 仕事と称した暇つぶしは生きる枷・制約なしでは不成立なのだ。
 たとえば、このまま飛行機が墜落してしまう。
 乗客は無事目的地の土を踏む夢ばかり見てる。
 ここはどこなのか感覚さえ地上とほぼ同気圧に錯覚、いいやその事実だって思考を都合よくキャンセルしては安心・安全なこれまでの航行を鵜呑みに席に着き、食事を味わい、歌を聴き、談笑、映画鑑賞をこなし眠りにつく。
 私を含むこのフロアの住人たちにも言える。まるで死が訪れた場所という感覚が見ごろに欠落してるではないか、殺人鬼が潜伏する可能性が低いとはいえ、勤務中とはいえ、一仕事終えた後とはいえ、すっかり日常が流れる。真向かいの荷物棚で息を殺すのかも。到着までに惨殺を完遂、それが目的ならば、動き出すには早計だろうとまでは考えが及ばない、いいやそれどころか不可解な現象は誰かが解明し、明らか、事細かに事情を説明をしてくれるだろう、他人任せにこの瞬間はまず自身の体力回復を図るべく機内食に舌鼓を打つ。
 瞼が重い。人のことばかり言ってられない、上空と地上の感覚はずれているらしい。
 アイラにしては珍しく疲れを感じたのか、彼女は液体を飲み干すと、しっかり目を閉じた。
 殺人鬼が潜んでいる、襲われてしまう危険はむしろ彼女には望ましい。アイラは、差し出された毛布に包まる、暑さで目が覚めなければ、と寒さよりも寝苦しさの目覚めが過ぎった。
 一生閉じた瞼に生きるのも悪くはないな、アイラはもう一つの目覚めを前の二つを差し置いては両手を広げ出迎えた。