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帰国便 機内 瑣末な出来事と現象~無料で読めるミステリー小説~

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「私にですか?」
「お断りをしたのですが、どうしてもと、知り合いだから、とおっしゃるもので……」眉根を寄せる客室乗務員田丸ゆかは非礼を承知で、しかし託されたお客にもそれなりに丁重に扱う義務があるらしい。
「返事を期待しないこと、手紙の始末は私の一存にゆだねること、ごみとして捨てられていようが反旗を翻す行為を自重、留まることを約束してください。差し出した時点で私の所有物ですから」
 その数分後、許可が得られた、と田丸ゆかが伝えた。
 一通ではなかった、縦に積む文庫本を他の棚に移し変えるように田丸は零れ落とさないでそっと手紙をはこんだ。アイラ・クズミは座席前のテーブルを広げる。積荷の崩壊を手を貸して阻止、上半分を受け取る。隣のスペースに置く。コーヒーの追加を頼んだ、受け入れたのだ、その分の仕事をとアイラは要求した。不釣合いな交換条件といえなくもない、理不尽さを彼女はかみ締めて、処理に取り掛かった。ちょうど、という表現は不適切に感じるかもしれない。ただ、めったに手に取ることのない雑誌は広告と、どれも語りつくされた内容ばかりで辟易していたところだった。曲の構想に充てる、それでも良かった。多分、気が向いたのだろう、ここは上空であり、常に移動をしている。考える時はいつも定点に収まるのだから、落ち着かない、が本能なのかもしれない、とアイラは分析をした。 
 便箋あるいはそれが入る封筒は事前に用意したものから明らかに空港やアメリカで購入した製品とに分かれる。分量はおおむね、便箋二枚にびっしりと書かれる。比較的文字の色は黒が多い、赤や青、緑もあった。オレンジは見づらくてピンクや黄色はさすがに選択を控えたらしい。茶色はかなり目を引いた。だからといって、内容は変わらない。そもそも一方的に思いを伝えることは下品である、と私は考える。
 注目の的、例の三人からも手紙が届いていた。カワニが興味を示しこちらの様子を見に来ていた、彼には手紙の処理を頼んだ。「お客に対して非情では?」、彼らしい意見にはさっきの考えを述べた。そう、手紙に目は通してある、また内容を把握しているか、それともたんに文字のみを目で追うのかは、当人、つまり私の知るところであり、カワニや手紙の書き手には確かめる術は、直接私の言葉を聞く以外にない。嘘をつくと改変した事実が伝わり、それを信じる。

 miyakoの手紙はこのような内容であった。罫線をずれて印刷された文字。