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ソール、インソール プロローグ 1-1

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 十二月三十一日、大晦日。師走と騒いでからクリスマスが終わりやっと落ち着いた頃に年末年始の街の賑わいである。十二月だけは師走と旧暦を言いたがる。環境問題を叫ぶ人種はイルミネーションを考えもなしに綺麗だと口にしているように見える。あくまでも私の見解で特定の誰かを避難しているのではないことを理解してもらいたい。私はつい先日この世に生を受けた。名前はまだない、もしかすると一生名前では呼ばれないだろうと悟り始めているのだ。親は常に私に寄り添っている。たまにだけれど離れる時があるがそれもほんの一瞬で、同じ部屋で寝て起きて、こちらから起こしてまた眠る。出かけるのも一緒で置いていかれたことはまだない。用事ができると私に報告してくる。あるとき、何故そうするのかを私は疑問に思い始めた。独り言も頻繁に話してくる。私が答えられないからだと理解するが、言葉を教えるために話しているようにはまったくもって思えない。自分の考えを押し付けているだけだろう。声色の変化は申し訳なさを感じているからか?
 私は外出先から帰宅した。親に同行してである。いつもの場所に私はそっと置かれる。躰にフィットした寝床。悪くはないが、自分の意志ではこの場から移動できないのが難点であるし、床への落下を考えると停止が得策だと気づく。薄いレースのカーテンから透けて見える外の景色。外出時の視界は遮られているので、家にいるときには外界の様子をまじまじと観察することが不可能なのであった。こうして定点の位置でしか、じっくりと観望を許されていない。
 私の寝床に猫が飛び乗ってきた。
 この家の先住民である。名前はウィル。外国の生まれか。こいつも話はできない。言葉が通じないのだから、一方的相手の攻撃を受けるしかない状態で親の助けがなければなすがままで気が済むのを待つ他にやり過ごす方法は今のところ見つかっていない。今後の課題。ただ奴は、今日は何をするでもなく隣で寛いでいる。陽光が差して温かいのだろう、この場所を選んだ理由は私への興味ではなかったようだ。