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ROTATING SKY 4-4

「つまり、他の人間が住んでいたってことですか?」相田が熊田にまとめた考えを投げた。

「何となくそう感じたんだ、確信はないよ」

「殺されたのは触井園京子ですよね?」鈴木が顎に手を当てて気難しそうに眉間に皺を寄せる。「そうか、彼女は触井園京子じゃないってことですか、熊田さん」

「持ち物、身元を表す所持品で彼女を触井園と決めつけた。彼女を古くから知る人物はもうこの世にはいない。彼女を彼女たらしめているのは彼女が身分証明書を持って、この家で車を家に停めて殺されたからだ」

「触井園を名乗って殺された、そうおっしゃりたいのでしょうか」偽装……種田の脳裏にその二文字がかすかによぎる。

「そう言っているつもりだ」

「身代わりか」相田がキッチンで呟く。

「殺される予定だったから自分と入れ替わり、代わりに死んでもらった」付け加えるように熊田が言った。

 種田は思いついたことを話す。「現場に危険を犯しに来る必要ならありません。推理ならば署の方が快適です。何を探しているのです、あの絵ですか?」先を知りたい欲求が早口にさせる。

「ああ、二階の押し入れに閉まっていたやつか」

「なんだよそれ」首を鳴らした相田が鈴木に訊く。

「相田さんも見たでしょう、固いダンボールに収められた額縁つきの絵画です、カ・イ・ガ」

「被害者にそんな趣味があったのか?」

「さあ、随分と埃をかぶっていましたから、彼女が描いたとしても相当前のものでしょうね。そもそもいつぐらいからここに住んでいたのかも分かりません。額縁に入ってるなら買ったものか誰かから譲り受けたものなんじゃないんですかね、自分の絵を額縁に入れないでしょうし」

「熊田さん応えてください」顎をさすり、先を言わない熊田の考えを知りたい。

「何を焦っている、種田」落ち着き払った低音で熊田が、焦るこちらを掌で転がす。

「焦ってなんていません」

「あの絵を餌に呼び寄せたのかもと、思ったんだ。絵の価値は人によってゼロから数億円の振り幅がある。数年前まで見向きもされなかった絵が数億円で取引される現実だ。鑑定士の能力は世に出回る作品から作家の特性や時代背景または画材やキャンバズ等の材質から作者本人が描いた絵であると導き出す。しかし、個人それも無名作家の作品でしかも作品が一点しかないという現状に於いては、価値の有無は買い手の熱量による。偽物であっても心から欲しいと願い、買うことで今後偽物や本物の登場がなければ幸せでいられる」

「あの、一体何が……」言いかけた種田を、片手を振って熊田が制す。

「ただの推測だよ、分からないなんてことは考えてみるまではほころびも生まれない」

「待ってください、今の長話は単なる憶測ですか?」

「ああ」

「ああって、ここで上層部に見つかったら職を失うのですよ!」

「しかし、実証しなくては間違いかどうかはわからない」

「呆れます」

「あのう、結局、熊田さんの推理が外れたってことですかあ?」鈴木が猿のように皆の顔をキョロキョロを見渡す。

「なんだかなあ」相田が急に痒みをました頭皮を荒っぽく掻いた。

「誰かあ、答えてください」

 種田は怒りを顔に浮かべ、相田は肩透かしを食らってため息、熊田は次の可能性に着手して考察、鈴木は一人置いてけぼりで異質な殺人現場に取り残されていた。