治るのだ、気持ちを切り替える、切り替えろ、時間は有限。
「治療に要する具体的な期間を言ってください」
「三週間は絶対安静です」
「右手の使用とその他の活動に制限は?」
「なるべく、動かないことを提案します」医者はペンを胸元に指す。「指先は使えますから、少しの荷物、つまむ程度ならと使用を許してしまい、動いていれば必ず左手も動かせる、使いたくなる。利き手は右ですね?」
「はい」
「利き手よりも左手は意外と使用頻度が高い。力を加える動作は右が多いですが、長時間、あるいはそうですね、支える・支点となる動きは左を多用する。覚えておいてください」
「退院できますか?」館山は尋ねた、すぐにでも自分の意志を行動に反映させたかった。ベッドに寝ていてはいけない、不可というレッテルを貼られているみたいに彼女は思えたのだ。
「手続きを済ませれば。歩くのもできる限り控えて、移動は車を使うことを勧めます。できないようでしたら、ゆっくり歩くことですね」
「守りますよ」館山は宣言した。「仕事に戻るために」
館山は目を覚ました一時間後に病院を出た、手続きはすべて時間をかけて自分で行った。小川が付き添ってくれていた、幸い店のロッカーに泊まり込みを想定した予備の着替えがあったのを小川が無断でロッカーを開けて持ってきたらしい。タクシーで店に戻る、恐怖感で乗車を拒否するかに思えたが、館山はすんなりと移動用の車と認識できていることに自分で驚く。
小川の言ったとおり店はランチタイムを過ぎて、数時間が経過、通常はディナー客を迎えて忙しい時間帯であるのに、クローズの文字がドアに下がっていた。小川にドアを開けてもらい、カウンターに座る、まずは店長と国見蘭に詫びた。不可抗力であっても、不用意に追いかけた自分の責任であると正直に事実をありのまま述べた。
「怪我は治るの?」カウンター、厨房内の店長がきいた、私の、私個人、そのものの心配よりも体、仕事としての使い物になる怪我の回復が気になるよな、彼女は首を垂れたい気分だった、しかしそれも痛くて叶わない。
店長は先を読んでいる。
小説の1話目は、こちら。