コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

拠点が発展2-4

 次の物件に移動する。中心街の車移動は渋滞と道順によって時間がかかるが、雪の中を歩くよりは快適である。聞いてもいないのに、アイラが日本に滞在する理由を話した。「商業施設、言葉が見つからないな、うんとね、ショッピングモールか、そんな建物のデザインを任されて、現場の視察と描いたイメージとの相違を感じ取るために呼ばれたのよ。イメージなんて見てから変更するって思いつかないのかしら。私は二番目に声がかかったんだって、一人目は嘘かもしれないけど、死んじゃったらしい」

「死は予定になかった、突発的な死ということ?」種田が詳細を尋ねる。あまり気乗りはしないが、一応問いかけてみた。

「殺されたんじゃないかしら」ううんと咳払い。アイラは席に座りなおした、柔らかいシートが腰に合わない様子だ。「詳しい事情は訊かなかったけれど、具体的なコンセプトを詰める段階で連絡を絶ったと聞いているわ。後どれぐらいかしら?」

「もうまもなくです」店員は具体的な時間を言わなかった。そういった場合は得てして、予定時間を越えている。

 S駅を左手に南下、交錯する通りを信号ごとに停止して、片側四車線の通りに出て左に曲がった。企業名がでかでかと書かれた広告が窓枠に消える。

 車両が地下の駐車場にもぐりこんだ。他を圧倒する、人一倍街に真新しくそびえる建物であった。

 地下駐車場のエレベーターで直接住民と顔をあわせることなく、部屋に辿り着ける。店員が上に運ばれる箱の内部にてプライバシーの保護を力強く説明する。きっと、部屋の紹介に欠かせない機能なのだろう、種田は説明じみた講釈を遮断、ドアの脇に配置されるボタンに目をやる。

 一階から十五階まで商業施設や企業が入り、十六階から二十階までが住居スペースと種田は予測した、ボタンが十六から二十の五つだけであったのと商業施設としての開業の記憶を繋ぎ合わせたのだ。 

 廊下の音声は遮断された音響室のような静けさを漂わせて、ほんのり甘い香りが漂う。照度は落としてあり、廊下に地上や上空を望む窓は見当たらない。廊下は数メートル進んで道が分かれる。店員はそのまま突き当たりまで進み、カードキーでドアを開けた。一人で住むには十分すぎる広さが眼前に飛び込んだ。リビングにダイニング、バスとトイレはもちろん分かれていて、寝室の他にこじんまりした部屋がひとつ用意されていた。姉はほとんど手ぶらと言ってもいい、持ち物の少なさである。後から届くにしても荷物を送る住所が決まっていないのだから、彼女はアイラの行動を読めずにいた。日本で衣服や必要なものは揃えようしているのだろうかと、種田は思う。