コンテナガレージ

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千変万化1-7

「端末の電源が切っ、ああ、本当に切れちゃった」

「私はとっくに電源を切っています」種田が偉そうに言う。

「わかっているよ、種田はいつも先を見通せるからね」

「出勤していれば好都合なんだがな」熊田はバス会社の敷地に車を滑り込ませた。

「アポなしが絶対条件です」そっとつぶやく種田。

「だろうな」

「ちょっと二人で秘密のやり取りしないでください」鈴木が焼きもち。

「のけ者ね」アイラが優しく介抱。

「はい、そうなんで、いつも僕が取り残されて」

「ごめんなさいね、私のために」

「いいえ、そんな、僕ならいつでも協力します」

「鈴木、アイラさんも降りてください」

「私も?」

 運転席のドアを半開きに、熊田は車内にかがむ体勢で状況を説明する。「ええ、一人車内残すわけには行きませんから」

 一軒家を思わせる造りのI臨港バスの事務室で熊田がバス運転手の黒河の所在を尋ねた、制服を着た年配の女性に以前に案内された奥の部屋に通される。専務の橋田という男の部屋である。室内は暖かく、暖房は全室に共通のダクトを通したシステムらしい。床に暖房器具は見当たらない。アイラは天井付近に下がる額に入れられた認可状を目新しく眺める。時計が残り時間を訴えるように熊田の目に飛び込む。残り約二十分。

 黒河が姿を見せた。蒼白な表情は、これが標準だったのかと思わせるほど首筋の白さと一体感を漂わせる。そういったことに対する勘のような感情の羅列は、不確定でも事実に通じている。

 行動がぎこちない、黒河を座らせる。入り口は鈴木に目配せ、閉めるよう促した。アイコンタクトは状況によりけり。日々のたわいもない会話をこなしても状況をどこまで俯瞰で見られているかにかかる。現実を克明に捉えている者には一生コンタクトは取れない、もし取れたとしても一瞬の間が最適なタイミングを失うだろう。

 区間の閉鎖、沈黙が流れる。

 場違いなアイラが座るよう黒河を誘導、隣に立つ似通った種田、黒河は二人の共通性が見出せたらしい。

 質問をした。ありきたりで、以前の質問となんら変わりはないはず。しかし、黒河はおびえた表情でこちらの目を見てはすぐにそらす。