コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

拠点が発展4-1

 山遂セナは午前中の建築デザイナーとの打ち合わせ予定を一日間違えて把握、急遽予定を変更した。空いた今日の午前は商業施設に出店を打診する企業への挨拶回りに費やすのであった。

 目星をつけた企業の反応はというと、具体的なコンセプトと集客規模の未定、それに利便性や交通の整備が整っていない現在は、明言する回答はできかねる、あるいは多いに期待してはいるが、あまりも奇抜な外観では自社のブランドにそぐわない、という回答を受けた。

 そう、外観は郊外に似合う建造物だが、無機質で一様的なビルとは別種。景観への配慮はなく、高さ制限は周囲の環境、日の当たり具合を気を配る程度、真っ白なキャンバスに自由に描く造り手にはたまらないだろうが、恣意性の高い奇抜な外観も予測、企業が一歩引いた態度を表したのはそのためだろう。彼は臨港沿いを独り占めのバス、車窓から見える殺風景な工場を眺めて思う。

 時々明るさを交えた雲間に射す光が窓の外、張り付いた氷の細片を溶かす。来月に建物のデザインとコンセプトの最終決定を予定している。手帳にはっきりと僕が決断した証として、赤字で書き記していた。一大商業施設のコンペは日本の、世界の名だたる建築家を集めて開催するのが、こういったプロジェクトには必須の行程である。

 というのは、複数案の提出によって、出品作品の質が向上されたデザインとコンセプトが生み出されるためだった。競争意識の働きを取り入れたコンペが一般的な建築業界における流れ。ただ、これは建築を絞り込むと同時にコンペに提出するデザインをも採用しなくてはならない。そこで、今回のプロジェクトはこちらで打診した建築デザイナーにある程度の裁量を持たせつつ、こちらの意見も主張する討論の場を設けた合作で建造物の立案を構築するスタンスを取っている。なので、発表作品そのものは採用せず、こちらの意見を混同させたデザインやイメージの固まりをもって、ようやく建設の着工計画が練られる。

 ここ数日は、働きづめだ。だからといって、休日を不要とする山遂である。彼には趣味がない。何かしらの趣味を持てば生活に張りが出る、そんな声をたくさん聞かされたが、あまり説得力があると思えなかった。面白さは人に押し付けてまで誘うことではないことと彼は判断を下している。また、彼の根本的な仕事への解釈も異質である。体力の回復に努める休息日が、彼の休日の位置づけ。仕事とは無関係、別の物事に集中すれば、ストレスを感じないよう日常に対処を施せる、すべては二の次で重要性が低下し意味を成さなくなる。すると、自然に無駄に消費していたエネルギーが行動に回されて仕事は疲れ知らずで取り組めるようになったと思う。