コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

拠点が発展6-5

 鈴木が反応した。「例の組織のことを言ってる?」

「組織ってなんです?おもしろそうですね」好奇心に満ち溢れた柏木の詮索、生々しい若すぎる抽象的な物事への関心を柏木は持ち合わせているらしい。あまり、場を共有する状況では、組織を匂わせる不確かな発言は控えるべきだろう、熊田は思う。

「いくつかの事件に関連が認められるというだけであって、何も確証はない。単なる憶測ですから、気にしないでください」熱を込めた視線を柏木に投げる熊田の落ち着いた気配はその時にのみ威圧を放った。すると、柏木はごくりとつばを飲み込み、それからは沈黙を終始徹した。

「周辺の聞き込みの期待は薄いでしょうね」相田はだるそうに額に皺を寄せる。

「遺体はどなたが見つけたのですか?」見回した種田が尋ねた。

「交番から匿名の通報があったそうだ」

「すると、それまでつまり早朝の時間帯の人通りと通行はほとんどなかった」

「今日がたまたまだったかもしれないよ」鈴木が言う。

「そのたまたまの日時を利用したのかもしれません」

「どういうこと?」

「もし、毎朝散歩で現場周辺を通りかかる人がいたとします。その人物が今日だけ旅行で一日家を空ける情報を、死体を放置した人物が知りえていたなら、偶然とは形こそ同じですが、意味合いはまったく違います」

「まだ殺人に意識を振るなって」後ろ手にシートのふちを歩く相田が中立性を保とうとする。

「別の雇われた人物が自殺の後処理を任され、回収したとでも言うんですか?」鈴木が反論。

「動物が拾ったのかもしれないぞ。鳥とか犬とか、その他もろもろも」

「せめて三つぐらいは例を挙げないと、納得はしませんよ」

「立ち入り禁止だー!」パトカーの山岸が突然大きな声を上げた。道から続く熊田たちの足跡の先、人が手を振って合図を送っていた。風に紛れて聞こえない、口を動かして何かを訴えているようだ。

「警察の人ですかぁー?」

「見ればわかるでしょう。入ってこないようにぃ!」柏木も風に負けない声を張る。

「事件で亡くなった人が、僕の知り合いかもしれないんですう」

「なんですってえ?」

「だからあ、死んだ人は僕の知り合いかもしれません」

「はあ、もうこれだから野次馬は困る」柏木は首を捻って、告げる。「一応、道はI市の管轄ですので、僕が対処します」

「管轄区域が入り組んでいる地域のようですね」種田はロボットのように首だけを歩道へ起用に回す。

「この一段低い空き地がうちの管轄。そして道はI市の管轄」鈴木が読み上げるように答えた。

 相田が何かを言いかけた、その時に柏木の悲鳴に似た奇声がとどろく。彼は手にした本のような物を掴んで、獰猛な猪のように猛進、危うく転びそうになりながらシートの手前、踏み固められた熊田たちの下へ戻ってきた、顔が高潮している。切れ切れの息で彼は伝えた。

「被害者らしき人物が亡くなる前日に所持していた物のようです」

 柏木の震える手に握られたこの青い表紙のガイドブックがすべての始まりであった。