コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

適応性3-1

 街灯にうっすら積もる雪が落ちかけはじめた午後の日和。

 午前中のあわただしい積雪がゆったり途切れて、気温の上昇は頬の上気が知らせてくれたらしい。S市T区、通り沿いの大型スーパーの混雑する駐車場に車を停め、店舗には向かわずに隣の暗がり、屋上駐車場の勾配を通過して、ひっそりと佇む公園に足を踏み入れた。

 公園といっても冬である。遊具は片付けられ、殺風景な広場が当てはまる言葉としては適当だろうか。部長は、灰皿を目ざとく見つけると野ざらしのベンチを、手袋を嵌めた手で払い、腰を下した。心地の良い日差しが差し込み、間を空けたベンチでは老年の夫婦が犬の散歩の合間に腰を落ち着けている。公園内は子供たちが数人、何をするでもなく、雪と戯れていた。

 部長は警察組織の仕事とは別の役割を担う。隠れた副業ではない。ある組織に依頼される案件を不定期に処理するのが彼のもうひとつの仕事である。上層部よりもさらに上の役職クラスの組織人に一目を置かれた部長は、こうして警察業務を二の次に案件に取り組む。

 組織になじまない単独行動を好む性質は彼自身が最も理解している、自由に行動を許されるのであれば、と案件を処理する彼なのだ。使命感に駆られたり、秘密を握られていたりということはない。そう、彼は思っている。もし、組織の脱退を申し出たならば、彼の隠された本性をネタに現状維持を迫られるかも知れない。だからといって、部長がそういった権力に屈する人物とは正反対の人間性であることと同時に、それは依頼主の組織が彼を登用した最たる要因なのだ。まあ、絶対とは言い切れないが、彼が組織を抜ける可能性は一桁に近い。それに部長は失う対象や躊躇いの類を一切持ち合わせていない。

 何を考えている?辞退という言葉自体が考えに上ったのは、退くことを深層では考えているらしい、タバコを吸ってくつろぐ屋外の真昼に、内面が不意に意識に現れてしまった部長である。

 手袋を取って外気に晒す指先が赤く痛みを通り越すと、やけどみたいに膨れる。かすかな指先の感覚が失う前に木製のベンチを立ち、スーパーの入り口に並ぶ自販機で温まったコーヒーを買った。両手を数秒缶にあてると本当のやけどを引き起こすので、片手を交互に温める。ベンチに繋がる踏み固められた一本道を踏み外さないように足を運んでもちろん視線は下を捉えたまま。そのため、ベンチに着く手前、今まで座っていた場所にブーツが見えて、部長はここでやっと顔を上げた。見覚えのある顔である。

「こんにちは。ご機嫌いかが」今日は主婦の姿を装っているらしい、相手の服装は体にフィットした薄手のロングダウン、薄茶色の髪はまた長く、肩口を優に超えた長さである。部長はポケットから取り出した缶コーヒーを手渡す。