コンテナガレージ

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エピローグ1-4

 不安定さは安定をもたらした。

 これまでの水平にどうにか戻そう、躍起になる私。

 それが不安定なのに。

 どちらを選ぶべきなんだろうか。

 日本語のガイダンス。

 そして、呪文のような言葉、繰り返し繰り返し。

 冬は秋が来たからで、春は冬を経験したから、夏は春が過ぎ去ったから、秋は夏が終わったから。

 私は私が終われば私だと判明するのだろう。

 いけない、思考が停まりそう。

 もうこれ以上は書いていられない。

 終わりにします、最後だけは畏まる。

 誰かが見てくれますように。

 私が見返せますように。

 その時は変わった私でありますように

 

 部長は四隅の画鋲を取って、紙を折りたたみ背広の内ポケットに差し込み、校舎を出た。

 上空にはめずらしく墨をこぼした黒に淡く、うす雲に隠れた月。

 近頃の自分を確かめるため、部長は軽く氷上でステップを踏んだ。

 

 ※

 建設着工開始を待たず、アイラは年末にはね上がる高額な航空券を手に日本を出国した。出来上がった作品、デザインは過去を振り返る、後ろ向きの動作。だから、彼女は即座に次のオファーを快諾し、創作に取り掛かる。空の上、しかし、窓の外は闇に埋まる。寝息を立てて眠る乗客、私の隣では小さな女の子が眠る。 

 ブックライトを消したアイラは窓辺の猫のように外を見つめた。今度は市立図書館の改築である。由緒ある建物らしい、詳細は頭に入っている。それでもまだ、漠然とイメージすら思いついていない。いいや、思いつこうとしてないのである。若干ではあるが、まだ滞在先に出くわした数奇な体験を思い返してならない。今までならば、とっくに忘れ去っていただろうに、家族との再会を果たした、ということも大いに関係はしているか。

 乗務員の女性、丸顔で微笑を絶やさない人物が声をかけた。眠れないのか、そういったおせっかいである。眠たければ眠る、異質な空間に緊張して眠れないように見えたらしいのだ。飲み物も薬も、気遣いも無用。はっきりとそう伝えてはいない、あくまでも装い、首を横に気持ち遅く振った。