コンテナガレージ

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抑え方と取られ方 2-9

「考えすぎ」

 店主はロッカーに場所を移す。ホールから呼び声。内部には響かない、単なる振動に声の解釈を切り替えた。

 動揺している?私が?

 寂しいという言葉に反応が見られた。隠していたのだろうか、表に出ないように。

 考えても無駄。試すしかない。また、実行が増えた。明日のランチ、待機時間の長さでイライラしている。ああ、そこには苛立ちが備え付けてある。紹介された物件に前住人の家具が置いてあるようなものか。

 上着を着て、マフラーを巻く。鏡は見ない、見ているのは他人。僕がその他人を見ている。

 厨房の照明を切る。

 接近する物影。

 視点を定める。

 衝撃。胸を圧迫。ホールド。

 左右へ振る。しかし、離れない。

 水分。

 流れて、上着を流れる。

 目が合った。近距離。拍動が接触部から感じられる。生き物。

 相手は声が出ない。あれほど流暢にしゃべっていたのに。こちらの方が彼女には重要性は高いと思う。

 開放。そして、一部が接触した。顔の一部だ。見上げる彼女の上目遣い。

 こちらも目が一瞬だけ閉じられた。急接近を避けたかったからかに違いない。

 彼女が後ずさり、段差に躓き、よろける。背後をうかがい、またこちらに首を振る。目的はこれだったのだろうか。 彼女は店を駆け抜けるようにベルを鳴らしてドアに消えた。

 風が舞い込んで室温との同化を狙った。