コンテナガレージ

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静謐なダークホース 3-2

「綺麗ですね、あの人」

「そう?」

「店長は、あんまり人のことを褒めませんよね」

「そう?」

「町で見かけた人を目で追ったりしません?普通の人の行動ですよ」

「それってつまり外見で人を判断している、とは受け取られないの?」フライパンを加熱、冷蔵庫からハンバーグのタネを取り出す。

「えっと、言われてみれば、はい、その通りかも」

「通常と目される行動はしてほしくて、でも、自分に向けられる時には愛情と思える。どちらも視線という括りに、明確な違いはない。したがって、世間の常識に納まった相手の行動を求めている。目で追い続ければ、指摘、怒る。だけど、無関心すぎても納得がいかない」

「ぐうの音も出ません」小川は落としそうな泡とともにシンクに引き返した。

 ハンバーグを調理。熱を加えて、表面を両面に焦げ目をつけ、オーブンにフライパンごと押し込む。付け合せのお決まりの甘い野菜は添えない。また、サラダがつけあわせで皿にのっていなければ、お客は単品でサラダを注文する。うん、小川に答えた内容に工程が繰り返されたみたいだ。

 数十分はオーダーといえば、飲み物ぐらいなもの。居酒屋ではないので、アルコール度数の高い酒は置いていない。ビールとワインのみ。ワインも特に銘柄の指定や味にも店主は無頓着だ。味を語るお客に、ワインの知識が豊富な人物が時折店主をテーブルまで呼びつける。しかし、店主は動じない。見ての通り、高級なレストランでもない、店構えも洗練されているとは自身でも思っていない、料理は大衆向け。また、どこどこのワインですか、そういった質問には産地や国名を答えるのみで、銘柄は控えている。しつこく尋ね、知識が上回るどっしりと構えたお客の質問には、契約先の業者名を告げる。その店から買っている、購入は同じ時期に作られたものを毎回異なる数量で買い、当日の使用数を毎日届けてもらい、運搬と保管の温度管理による品質の低下は最小に留めている。すると、ふんぞり返ったお客のほとんどが、返す言葉に困って連れのお客と無言を作り出す。そこで店主は改めて相手から見下される位置から、ワインのお代わりを催促し、相手は同意。席を離散という図式も、開店直後には多々あったが、最近ではあまりないだろう。ホール係の国見が対応しているのかもしれない。