コンテナガレージ

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静謐なダークホース 5-6

「何かに縋るほどに疲弊はしていない。すべてが想像であると理解ができたなら、得体の知れないものを不安視する労力は他へまわせる」

「戻りました」国見が戻ってきた。館山は、店主に仕込みの状況を説明、休憩に入る。もも肉を叩き終えたところで彼女は休憩を時間を五分ほど費やす献身を見せて、作業を終えた。彼女らしい、対応である。

 その三十分後に小川が戻ってくるなり、ランチ後の出来事の続きを尋ねたが、盗聴器の件は、無駄な討論を招きかねないとして、店主は黙っていた。

 それからディナーの時間帯。お客の入りは上々。忙しさは通常の一・五倍。雪祭りの効果らしい、休憩時間に店から数分の会場へ雪像を見てきた小川が、作られた芸術品の大きさをさも自分が作ったかのように話す。雪で作られたための感動だろうか。つまり、はかなく散る、季節限定の楽しみという観念。店主は雪像の解釈を考察したが、すぐに料理へ意識を引き戻す。

 今日はよくジャガイモのスープ、かぼちゃのスープが出る。午後九時前に両方が底をついた。体を温める作用をスープに頼る寒さに不慣れなお客が多いため、小川の読みは当たっていたようである。

 十時、閉店に近づくにつれて、お客が帰路に着く。一組が帰り始めると、流れを呼んでか、他のお客も席を立つ場面がよく散見される。あくびに似た作用、もしくは腰を上げるきっかけが欲しかったのかもしれない。店主は、カウンターから寒さに送り込まれるお客を眺めていた。時折、こちらの視線に気がついて、言葉に変換すると「ご馳走様でした。どうも。失礼しました。あはっ」、といった心情に解釈が可能だ。

 オーダーの受付を終了した、との国見の報告。厨房では既に掃除に取り掛かっていた。最後の一組が帰った、また国見が報告。うっすらとかかるBGMが止まった。掃除を終えて在庫の確認。倉庫から戻り、棚に食材を並べていると、ドアが開いた。   

「お忙しい所を何度もすいません」比済ちあみである。微塵も申し訳なさを感じ取れない表情の険しさと声量である。やはり、彼女に続いて二人の男が姿を現した。夜なのにサングラス。どういった了見だろうか、足元はかなり見にくいはず。