コンテナガレージ

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静謐なダークホース 5-3

「取り立てて特殊な調理法は採用していないし、味に関しても守秘義務は行っていない。それに、僕はあまりしゃべらない、館山さんたちは多少の迷惑を聞いている者に知られるかもしれないが、それほど普段と、仕事における態度に僕は違いを感じていない」

「気持ち悪いです、私は」めずらしく館山が主張を通す。他の従業員が出払っているため、という状況は大いに彼女の真理に影響していたのだろう。多数ではなく、一人に対して向けられるベクトルにこそ彼女の真意が込められる。反対に、大勢において彼女はほとんど真意を押し殺してる、店主は館山の性格付けを反証した。

「アーケード街に無線機を売る個人商店があったように記憶している。話をすれば、解決してくれるか、盗聴器を発見する装置の情報が手に入るかもしれない」思い立って、店主はサロンを手早く腰から剥ぎ取った。「ディナーの用意、鶏もも肉は下味をつけて、胸肉はカツレツ用に叩いて引き伸ばしておいて」

「店長、あの、私そんなつもりで言ったのではなくて……」吊戸棚に丸めたサロンを収める店主に、行動を抑制する、引き止める、私の為に申し訳ない、といった館山の謙遜が漏れ聞こえたが、店主は返答せずに、上着を取りにロッカーに引っ込むと、ホールとカウンターの通路、入り口に向かう歩行時に、館山に言った。

「館山さんがそういうなら、他の二人ももしかしたら、同様の気分に晒される。直接的な害を僕は正直感じていない。ただ、精神的な圧迫というのは要因を取り除かないことには、安定は望めない。この場合は、確実に君たちの目の前で手技を行うしか、不安要素は拭えないと考えたのさ。それは店のため、ひいてはお客のためでもある。十分から十五分で戻る。何かあったら、端末に連絡を」

「……いってらっしゃい」

 強風が居座る午後。雪が混じっていないのは幸いである。雪祭りの見学にちらつく程度の雪に対しても傘を差す観光客が狭い道幅一杯に低速で歩道を占領。駅前通を観光客の背中に隠れ、南下。そのまま、アーケード街まで行き着く。

 しかし、困った。店主は、信号待ちの姿勢で左右続く道を眺める。かすかな記憶は、夏の映像である。冬の景色では雰囲気に大幅なずれが生じている。安易に外に出たのが間違いだったか。どっちだろう。数字の三と二が円弧を描いた年季の入る装飾が目に止まる。信号を渡ると二番外街、そして背後にアーケードが三番街。あまり人気のない、錆びれた末端の場所というイメージだったか。店主は切り替わる信号にも後押しされて、横断歩道を渡った。幅広の道に個人商店、中央にはベンチや植物、看板、車両通行禁止の標識が左右を分断する。店は飲食店に始まり、洋服、雑貨、小物、土産物、めがね、印刷所、判子屋、古書店、美容室、理髪店、そのほかはあいだを埋める降りたシャッター。奥まで進み、アーケードの切れ目を渡る。次が一番街。信号はなく、細い路地が切れ目を分断、バイクと常時止めているだろう軽自動車が埃をかぶっている。この季節でも除雪はされているらしく、すると車は所有者が乗り降りをしている、と取れるか。