コンテナガレージ

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抑え方と取られ方1-3

 実験によって、教授が実際に公園でブランコに乗る模様がスクリーンに映し出された。講義の主張や説明は、異なる重さの物質を同じ高さから落とすと、重力の影響により重いほうが先に地面に到達する。だが、重力が地球の六分の一の月での実験では、重さが異なるものもほぼ同時に地面に落ちた。重力が落下物に与える影響が軽減されるのだ。

 そこで同じ高さ、重量で同じ往復回数を数える間に要する時間を計れば、重力の物質への影響を説明する理論はこれで証明されると画面の中の教授は言っていた。ただ、そこには誤差を含ませていた。つまり、不正確な実験であると言うことを盛り込んでおいたのだ。そして、実験を複数回繰り返し、それらを回数で割れば、さらに正確な数値に近づく、というものであった。

 着替えて、厨房に入る間に振り返りを止めた。

 前日に今日のランチメニューは決まっていない二時間前の店内である。

 店主はカレーとシチューの構図が浮かべた。具材は共用できるものが多く、流用が効く。カレーには牛を、シチューには鶏を選択。ホワイトソースは、生クリーム、牛乳、バターに小麦粉。大豆信者の登場を警戒していないといえば嘘になるが、使用をやめたと宣言はしていないのだ。

 カレーのスパイを吊り棚をあさって探す。大丈夫、一回分のランチを作る量は賄えるだろう。店主は楽観的に自分の性格を変革していた。昔の自分は、もっと引っ込み思案で物事には後ろ向きであった。今も、本質的な性格は変わらない。無駄な心配に取り合わない性格を身に着けたと言い換えてもいい。失敗の予測を立てることは必要であるが、安全側のマージンを摂りすぎてもいけない。

 あっさり心配事を離れて、倉庫の在庫を確かめる。残りはオーソドックスな香辛料を残して、在庫は切れていた。明日の使用に間に合わせて、今から早めに注文を入れるか。

 店主は、店専用のPCから注文をした。電話やファックスでのやり取りは、家族経営や小規模の会社の注文に利用されていて、メールの注文を受け付ける業者は、限られている。端末のネットワークで回線に接続、めったにネットの巡回はしないため、大画面で情報を読み取るのは久しぶりの光景。それでも店主はそつなく発注をこなすと、仮想空間上のメールを閉じてPCをしまった。

 大量に不ぞろいの中から情報を掬い取る行為が時間を奪うのだろう、店主はPCに触れ、確信めいた感触を覚える。視野の約半分をディスプレイに集中させて、外部の情報を取り込む。意識が通う。処理領域の限界は、疲労という人間側の管理で知らされる。離れた時には限界をオーバー。休息の回収に時間を要して、それでもまた画面に虜。落ちた視野が通常に取って代わり、世界がひるがえって見え、現実が置き忘れ。