「はあははは、へへへ」
「わかりやすくごまかすな」
「あの丸いやつ……っあぐっ」くぐもった小川の声。店主が振り返ると、細長い指、館山の手が小川の口を完全に覆う。館山はおもむろにコックコートの内ポケットを探って、紙を取り出した。太い文字は、「店内、盗聴の恐れあり」と書いてあった。紙をしまって、小川の口が解放される。
「うはわっつは、半分もうダメかといくつか神様に一生のお願いを頼んでしまった。くそう、ここまで残しておいたのに」
「一生の願いは普通一つだ、それに鼻が空いていた。死にはしない」
「小指の関節が塞いでました。それよりも、と、……今のは事実ですか?」
店主はボールに向き直り、ひき肉をこねた。館山が黙っているので、店主が代わりに応える。
「盗聴器が仕掛けられてる、と言ったのは館山さんの知り合い。事実か否かという議論の前に、その発言がもたらす優位性を確かめるべきだろうね。要するに、彼女の発言は店内における会話を制限するように働く、すると僕らは、直接的な表現と名称を避けて、言わなくてはならない。ただ、それが長時間、数日続くと、僕は黙っていられるけど、二人は沈黙の期間に考えついた可能性や気がついた事実を誰かに話したい衝動に駆られる。店内で話せない、屋外だ。休憩か、営業後に二人の後をつければ、盗聴器が仕掛けられてなくとも、彼女は会話を聞きだせる」
「でも、歩きながら話して、聞かれますかね?」
「その時は本当にすれ違いざまに盗聴器をつけるかもしれない」
「あの人は、とっつきにくい印象は持ちましたけど、悪事を働くようには見えませんね、私には。むしろ、そういった裏で操るというよりかは、騙される方ですよ」
「フォローすると」館山がぎこちなく言い添える。「駆け引きをするタイプではない。正面からぶつかって、まあ人間関係はひびが入ることがほとんどね。私との関係もまあ、偶然の再会。連絡先は一応把握していたけれど、連絡は途切れ途切れ。ああ、もしかすると、うん、私との接触が計算かも」
「チョコが配られる前ですよね、その人と会ったのは」
「あらかじめ情報が流れた」店主がそっけなく言う。
「栄養満点のチョコを渡すってことを?ですか」
「二人とも、手を動かしてもらえるかな?」店主は口元を上げて、二人を見た。