木曜の仕込みに店主は取り掛かる。第二の出勤時間に定着してしまいそうな午前八時過ぎ。店の前の雪かきを済ませたので、体がほのかに温かい。暖房を入れてから外に出て、スコップを操ったので、発熱した体だと店内は暑く感じた。水分を取ったために、汗もしっとり額ににじむ。
「店長、雪かきは一人で?」小川が帽子を取るなり、目を丸く、訴えるような表情だ。
「僕は双子ではない」
「一足遅かったかぁ」行進を踏むように小川は床を蹴った。
「雪かきは仕事に換算していない。除雪のための早い出勤は望んでいないよ」
「少しでも、助けになればって思ったんです」
「助けてほしいとき、僕は素直に求めるよ。この周辺の飲食店の様子を見て回るように頼んだときみたいにね」
「……それじゃあ、だめなんです。……何でもありません、着替えてきますう」
頬袋を膨らませるリスのように、小川がむくれて、ロッカーに。足音がわざとらしく乾いて響く。
入り口、ドアの上部にぶら下がる鉄製の呼び出し鈴が鈍重に空気を振るわせた、国見が出勤してきた。手にはなにやら荷物を抱えている。
「どうしたの?」店主がきいた。
「あのすいません、ちょっと持ってもらっても、ああ、安佐、落ちる、持って……」
「わああっと。どうしたんです、ダンボール、うあっ、重たっ」みかん箱ほどのサイズ、ダンボールは特定の業者専用の箱とは異なり、無地のいわゆる茶色いダンボールである。上面はガムテープでしっかりと密閉。店主は、厨房とホールを挟む通路まで出てきた。小川と国見は腰をかがめた状態で、蟹股、カウンターの天板にのっそりとダンボールを置いた。
店主には見えていなかったらしく、上蓋部分にあて先が書かれていた。この店の郵便物。しかし、こんな早くに郵便局は開いていない。
「よいしょっと」国見は礼を言って、店主に説明を始めた。「私の端末に直接連絡が、昨日ありまして、不審さは当然感じましたけど、店の荷物をコンビニ受け取りで配送したので、持ち帰るようにって、それだけ言って電話が切れまして」