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ゆるゆる、ホロホロ4-4

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「では、こちらの席に」小川はカウンターに三人を案内する。しかし、女性はホールの段差で立ち止まり、じっとそちらに恨めしそうな顔を向けていた。そちらが好みらしい。
「お好きな場所に座って構いません」彼女の背中に店主の一押し。掃除が遅れるのは重々承知。だからでもだってしかしだけど、どれも自分たちの言い分でお客はまだ閉店五分前に滑り込んだのだ、権利はお客に、応対は我々にある。決して一般的な対応ではないかもしれない、だけれど、僕らは店を構えている上ではお客は常に最優先事項で疲れや明日への慰労なんてけったいな理由は今日を終えてから考えるべき事柄。大変という、気分には一切ならない。そういう人たちは、かすかにでも自分を優先しているから放たれる言葉なんだろう。僕は一切合切自分という人物を店ではかき消す。必要性がないし、意味すら見出せないのだ。息が詰まる?何を気にかけて気にして押し殺しているのか、そこがどこでも誰が見ていようとも僕は息が吸いたい。これだけの理由で十分だろう?
 小川に言われたのでない、彼女の表情が大方の意見を話してくれるので、悟ったまでだ。館山と国見がたっぷり食材、調味料、消耗品、備品を抱えて戻ってくると、お客の姿をいち早く国見が視界に捉えて荷物をおろし、厨房を出て、グラスに水を三人分、手早くそれぞれの席に運ぶ。女性はテーブル席に、二人の男性はカウンターの両端に腰を下ろした。三人を結ぶと二等辺三角形が形作られる、ついつい、ニヤついてしまう店主である。
 小川、国見、館山がお客に同時に注文を伺ったら、声をそろえて同じ言葉がこだます。めずらしくもない。オムライスと従業員たちが告げる。オムライスは至極単純でありそれまだ難しいとされるのは一工程が少ないために失敗の取り返しができない、つまりミスは即座にやり直しに繋がる。単純なものほど、見るべき場所があまり用意されていない。
 作業時間は材料を切るところを加味しても五分ぐらいだった。お客三人は皿にスプーンを押し込んだ、これまた同時に小川、国見、館山に「あのね」、「あのさ」、「実は」と今日の出来事を語り始めた。