コンテナガレージ

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仕事(フリーライター)、日常、小説、その他諸々

あちこち、テンテン 7-2

 午前十時に小川安佐が出勤、その三十分後に国見蘭が揃う。小川安佐の作業は通常の業務、店主の指示に従い食材の下ごしらえ。無論、店主も一緒になって作業をとり行う。外から覗かれるガラス窓の付近にて館山は一時間で試作品を二品作り上げた。日ごろ、メニューの考察に時間を割いている証拠である。言われた傍から彼女は複数の候補を浮かべていたにちがいない。どのような人物が料理人に向いているか、交わされた修行時代の店での議論を思い出す。こだわりが強い者は料理を作ることをいとわない。楽しむ人も、仕事が長く続く。しかし、提供するのはお客にであって味に理解を示す人間だけで決してないのだ。むしろ、そういった人種に提供する機会の方が、割合的には希少だろう。ただ、おいしい。それだけのことだ。なにが使用されて、どのような食材を仕入れ、味を表現するのかは、お客にとっては関心ごとであっても、無理な追及はしないのが一般的。
 彼女、館山は追及を怠らない。自宅でも日々研究を重ねているはずだ。以前の彼女とは別人。考えている人物はレスポンスが早い。生まれ持った頭のよさではなくて、多くの時間を料理に費やしている、考えているから即答できるのだ。
 皿に盛られたサラダを二品、館山は店主に恐々差し出した。小川がごくりとつばを飲む。
「なぜ二品なの?」当然の質問である。
「一品目を作っている最中に、ひらめいてしまって、ついもう一品どうしても食べてもらいたくて」館山の言い方は、好意を寄せる異性への手料理の最初の一口に聞こえた。
「自信のあるなしは、必要ないといいましたが」
 長身の彼女が背中を丸めて、下を向き、一度店主と目を合わせまた、足元に目線が落ちる。「……本当は、はい、自信がなくって一品だけだったらもしかしたら私の料理が採用されないんじゃないかと、はい、おっしゃるとおりです」
「お客さんに食べてもらう料理が大前提とはいいました。ですが、窮屈な発想を望んだのではありません。巷に溢れている料理でもあなたオリジナルの創作料理でも構いません、ただし、あなたが食べてもらうことを念頭に料理を作る。これだけは守って欲しいですね。簡単なことです。料理ですから、今日の気温や天候、昨日との温度差、風の有無、雨は降ったのかそれとも降り始めたのか、おおよその見当はつく。会社勤めならば、給料日の後は前か。何日も働いているのです、男女比も体感している。そういった細かな視点からでも料理は作れてしまうのです。高価な食材はこの店では一切使わない。まず利益が薄い。誰のため、お客さんのためであって、それは店のため、売り上げのため。愛情を持って利益がないから、それでもお客さんが来てくれるからという精神を僕は持ち合わせていない。がっかりもするでしょうね、こういう言い方だと。けれど、これが商売だよ」