コンテナガレージ

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革新1-6

 「私なにか変な質問しましたか?」話題を戻して質問を続ける。

 「いいや、うん。あのギターに選ばれる奴ってのは感度が良いんだ。こうアンテナがぴーんと張っている」店員は額から斜め上に指先を伸ばした。ラジオのアンテナを伸ばすように。「弦を張り替えるのは何度目?」ギター受け取った店員が聞いた。

 「……六回目、だと思います」正確な回数は忘れていた。聞かれるとは思いもよらなかった。

 「普通は二、三ヶ月で切れるんだけど、相当弾いてる。なんで?」

 「あなたはなぜ食事を摂るのでしょうか、それと同じぐらいに答えのない質問。弾きたいから、ただそれだけです」

 「太い弦に変えてみるか?」

 「お願いします」

 張替えを頼んで商業ビルを地下まで降りて、家電量販店でCDを購入した。こちらも盛況な混雑ぶりで新商品の発売で行列をなした通路、買い物客が埋めつくす。列に並んでいるからといって横柄な態度で店内のあちこちに視線を配ってまるで監視カメラのようだ。大勢になれば慢心や余裕を作り出すのだろう。たった一時の優越感だ、許してあげようではないか。

 CDの購入でポイントカードの提示を求められたが私は持っていない旨を伝えた。作ったほうがお得だと勧められても、何がどうお得なのかははっきりと理解できていないのに、「はい作ります」とは答えたくない。だから作らない。

 イヤホンを耳に装着して外界と隔絶させて人混みを抜けた。音は出していない、周囲との断絶が目的だから。

 正午に迫る時間で人が増えてきたみたい。書籍が売られるフロアで立ち読み。ここは人の流れも少なくて密度も低い。なるべく人の少ないルートを選択して楽器店に戻ってきた。時間的に早すぎたとも思ったが、出来上がっていないのであれば店内で時間を潰ことにしようと決めていた。長髪の店員の姿は見えない。

 弦はこれまで、太さを細くあるいは太いものに変えるという選択肢をとらなかった。ギターの性質、技術の落としこみの段階で環境を変えるのはまた一から培ってきた感覚をゼロに戻してしまう。だから、弦は一様の太さを同じメーカーで同じ人の手を選んできた。

 夢中になれたのは生きてきて初めてだったかと思う。勉強も運動も習い事もどれこれこれも簡単にこなしてしまえたからすぐに飽きて友達の真剣さを横で眺めて、そのうち離れてしまった。すぐにまた別に興味を持って離れてを繰り返す。

 ギターを手にしたのは、完成までに時間を要すると直感が反応したからである。これだという、運命めいた出会いとは少々ニュアンスが異なる。もっと核心的で現実的な選択と言ったほうが正解、あとはギターへの興味が解放されたため。きっかけは忘れた。でも、弾きたいと思った。そう、単純に。

 この楽器店はフロアの端、行き止まり、不思議とふらりと立ち寄るお客は誰一人として入店しない、それどころか行き止まりを知って引き返す。レジに長髪の店員が姿を見せたので、私は手にとった弦を元に戻して彼に話しかけた。