コンテナガレージ

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独自追求2-1

 整理券の配布からわずか数分で、即席の観客席が急ピッチで作られた。券を所持する観客は我先にと、開かれたゲートになだれ込み最前列の確保に余念がない。私はまだ誰が登場するのかも知らないので観客との温度差は歴然として、埋まらない最後方の席に落ち着いた。本来なら前から順々に詰めていくのだが、係員も観客の勢いは止められずに、という状況で私に注意を促したりはしなかった。

 開演は十四時と地面に落ち足あとのついたピンクのチラシで知った。

 私は、席につく前に出店でラムネを買っていた。からころんとビー玉が瓶を傾けるたびに存在を知らせているようだ。斜めに仰いだ顔で空を眺めてみると今度は空を独り占め、旋回するトンビもしくはタカと空の譲り合い。雲だって他所へ逃げていったから、空がどれぐらいの青いのかの比較ができなかったけれど、間違いなくハッピの青よりは空色だろう。

 ポケットの携帯が震えた。メールである。送信者は杏。

 「来ないって言ったのに堂々とステージ前の席に座っているのはどこのどいつでしょうか」

 「ここのこいつ」と返信。

 「何してんの?」

 「席に座ってる。あと、ラムネを飲んでる」

 「アイドルに興味があったとは初耳だけど。年下が歌って踊っているだけでしょう?何がいいの?」

 「アイドルが来るの?」

 「はあ?誰が来るかも知らないでそこに座っているの、あんた?」

 「成り行きで」 

 「たぶん、あんたの趣味じゃないと思うけどね。まあ、楽しみなさいよ。じゃあねー」

 私はあたりに視線を走らせた、隣の席は中年の男性が座っていた。体をねじって後方を捉えるが、杏の姿はない。座ったばかりのところを見られたのだろう、大勢よりも単数に興味が移ったと考えるべき。まあ、見られても咎められることを私はしていない。約束の内容をすべてを話さなかった杏にも非があるのだし、私の行動が制限される言われはない。