コンテナガレージ

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独自追求1-3

 「完全に選択ミスね。期待には添えそうもない」

 「誰がほかに空いてる奴いなかったかな」言葉だけを聞いていると男性を思い浮かべるが、女同士の会話では頻繁に起こりうることなのだ。だから、男性の前で極端に声色や言葉遣いの違いに敏感なのである。男同士ではどうなのだろうか、虚勢を張ったり、意地やプライドで口調がぶっきらぼうになったりする傾向は認められる。ただ、言葉自体の変化はほんの僅かで、どちらかと言えば異性に対しての場合は感情が豊かになる。わかりやすい態度だろう。普段の何気ない口調はベクトルの向きを読みにくい。

 頬杖をついた杏に言った。「いたら私に電話をかけてこない」

 杏の時間が止まり、けれどすぐに氷解。「それもそうね」

 「じゃあ、私帰るから」お茶を手に私は立ち上がった。

 「このあとなんか予定があるのかい?お嬢さん?」戯ける彼女がきいた。

 「ある」

 「どうせまた下らないことなんでしょう」

 「そうね」私はそこで言葉を切る。「でも、私にとっては重要なの」間をあけて杏に投げかけると威力は抜群で相手はたじろいでしばらくは動けなくなる。

 肩をすくめる杏。ハリウッドスターでも最近はこんな仕草をしない。「……何を言っても無駄みたいね。最初からあんたを誘ったのが間違いだったか」

 立ち去ろうとする私に再び声がけ。「本当に行かないの?」

 振り返り、応える。「行ってどうなるの?先のビジョンが見えていないなら行っても仕方がない。ただの偶然や相手からの誘いに任せるにはデータが少なすぎる。結果は目に見えてる」

 都合よく、ガラス越しの杏とは反対に続く廊下が地下鉄への最短ルートであったので、顔を見ずに地下に潜り込んだ。大学にはお茶と数分の会話のためと銘打っても、評判にならないほどの集客力の無さが見込める。当の本人が眠たそうな表情で開演後もまだあとを濁しているんだから始末が悪い。忘れよう。

 暗所を進む箱に揺られて乗り換えの駅まで眠った。

 私は曲のテーマを模索した。根底に流れるゆるがない塊。時代に合わせて曲や詩を変えることにお客は異議を唱えないだろうか。これまで聞いてきた雰囲気が好きだと変化を嫌う人も中には存在する。しかし、変えなければ置いて行かれるのは事実。それに、あえて不感を解き放ってみても面白いかもしれない。心から嫌っていたら私から離れていくだけだろうし。