コンテナガレージ

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再現と熟成1-2

こちらも商業施設で女性に特化したテナントが多いだろうか。さらに地下に潜って落ち着いた雰囲気の喫茶店に入店した。垂直に近いシートも外の騒々しさと比べたらなんでもない。折りたたんだ用紙に必要事項を書き込む。コーヒーを店員に注文。ボールペンは楽器店で借りてきた物で、無造作にポケットに仕舞いこんでもちろん短髪になった店員の許可をもらっての行動である。黙って持ってきたのではない。

 氏名や年齢は紹介に必要であるが、はたして連絡先やアドレスや趣味、特技は必要だろうか。用紙を睨んでにらめっこ、勝敗はつかない。次の空欄部分が記入事項の中で最大範囲、オーディションについての意気込みである。最も無駄。意気込んでいるからといって審査員のお眼鏡にかなうわけでもないのだから。読まないのに、審査には関係がないに、物足りなさで足してしまうんだ。

 コーヒーが運ばれてきた。一口だけ熱さをはかる。深煎りは私の好みではない、アイスならば最適。ただこのコーヒーは深みを抑えた一杯を飲み干してちょうどいい苦味とコク。淹れてる人物が変わったのかそれとも淹れ方の変更か、あるいは豆を変えたのか。美味しいのに詮索は無粋というもの。さっさと書き込んで時間を潰そうとペンを執った。

 店には薄い文庫本がお客にたまに読まれるために入り口の脇に雑誌とともに埋もれている。角を合わせた用紙をポケットに押し入れた私は、立ち上がってめぼしい一冊を手にとり腰を落ち着けた。

 過ごすこと三十分、章の終わりで我に返る。携帯の時計で時刻を確認すると本の続きはすっぱりと忘れさって店を出た。

 楽器店に戻る。レジで縦も横幅も私の二倍はあろうかという男が店員に食って掛かっていた。先客は先客なのでいかに傍若無人な振る舞いをしていようとも、私が間に割って入りやり取りのを止める権利は持たない。

 「なぜ駄目なんだよ。応募要項には年齢、性別不問と書いてあるじゃないか。条件はクリアだ」

 「ダメとは言っていません。応募してもコンテストには出れないですよ、と言っているんです」店員はよそ行きの声でしかも言葉遣いも慣れない丁寧さを使用する。ギターを眺めて私は順番を待った。

 「だから、その理由を聞いている。どうしてだ、どこに落ち度がある?」胸に手を当ててはちきれそうなシャツが更に引き伸ばされる。バックプリントのギターを構えた外国人の表情も真横に口が引き攣っている。