全身の力を抜く。ゆらりと蛇のようにくねくねと捻る。肩の力は一旦力を込めて脱力させれば、本来の性能が回復。全ては中心から外部へ。前屈みの頭は根本から引き起こして茎から意識を削ぐ。ぴょんと跳ねて踵の存在を明確に。
一人が呼ばれた。次が私。
息を忘れていたので、吐きだして。
宙に浮いてる気分、視界は良好。目指すはステージ。肩を叩かれる。広げた手で案内状の到着。
幕が垂れた隙間をくぐってステージ袖へ移動。傍に合図を待つスタッフが私の出動にきっかけを与える役。
左右にステップを踏むスラっと伸びた足元が視界に入る。
音が停止、演奏が終わったようだ。歌い手が袖に下がる。泣いていた、感動かそれとも失敗か。
マイクで番号と名前が呼ばれた。
階段を上がり、壇上に踊り出る。体は適度にリラックス。会場を眺めてみる。音の響きを考慮して会場を選択したのか、主催者側の意図がわかりかねた。何を審査の基準としているのか、読み取れない。小さな箱ではいけない理由を知りたい。調子が出てきた、批判的は私のいつも。
「では、四番の方。お願いします」正面に座る人物が進行役か。マイクの高さを調節。スタッフが近づきかけたがすんなり私が仕組みを悟って口元にマイクをセッティング。
場の雰囲気を私に向けさせるために世界を私が支配するつもりでギターを鳴らし始めた。私を中心に会場の四隅に私の分身を曲の進行に合わせて異なる表情で配置していく。照明まで私の味方について、天井も床も椅子も壁も機材も人も何もかも私に同質で同等。まるで海に浸かっている感覚。
聴衆の過去を記憶それぞれに体感させて揺らがせた。
飛べない私と、傷が完治した私、飛び出す私、邁進の私。
声が遠くへ届くかなんて瑣末な事。大きく口を開いたからってそれも同じ事。四人の私と共鳴。振動は増幅されて爆発的に増幅して届けられた。
ギターから指を離す。会場が静寂に包まれる。正確には空調や機械音が微かに鳴っていた、だが人が発する音は聞こえなかった。
「……どこでギターを習いましたか?奥出さん」審査員の一人からの質問である。眼鏡をかけている。照明が灯り、昼間の室内でもその効力は抜群だ。