コンテナガレージ

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再現と熟成2-3

 リモコンで消灯。

 そよそよと網戸を通過する風の一団が海から到着。夜は陸から海上に向かって、昼は海上から陸に向かって風は吹くのではないのかと考えつつ、すぐに離脱。常に一定方向に吹くとは限らない。

 ギターを体に一部に、ステージに上る私。

 ホールは階段上の客席から見下されるステージの作り。最前列に審査員と進行役の女性。壇上に呼ばれて下手から私が登場。会場の隅にこちらを見ている私を配置。その子からステージの私に向けた視線で状況をつぶさに観察。最後列の最上段は表情を伺えない。届くのは声と音と仕草。自己紹介と曲名のアナウンス。もう一人歌い始めに右奥に私を立たせた。あそこまで届くようにとの理想の距離だ。お客の年齢はまちまち、バラバラ。服装で推測する。感覚の共有は難しそうだから、もう少し段階を引き上げてみる。共通項を探して結びつける。そこに意識を通わせて同類だと刷り込む。あちらが近寄ってくるには一曲だけでは不十分だ。ギターの湧いた音色が間奏で独創。間を埋めるための楽器は重複から単体への移動で如実に変化を感じられる、そんな音もあったんだねとわからせるための身の引き方。そしてまた歌を重ねる。取り組みをいっぺんに全て表現するのは困難を極めた。落としこみが足りないせいだろう。もう一人、今度は背後の左奥に私を住まわせる。見えない場所でもそこにいるのだと縁の下の力持ち。届けないのなら相手の前ではなくその奥の奥に終点を結実させるとライン上の相手は思いのほか、楽に今までの苦労がなんであったかとバカらしく思うように溶けこんでいくのだ。終盤、更にもう一人奥に右端に私を立たせる。終わった後の私が控え室でぐびぐび水を飲んでいる様子が浮かんだ。汗も吹き出してでもハンカチやタオルなんて持っていなくて、手の甲で額の汗を拭ってる。誰かが差し出したハンドタオル。断る。それでも使ってくださいと、押し付けられて屈託のない笑顔の接近。ためらいのあとにさっと借りたタオルで拭いて返して水を飲んで、ギターを担いでホール会場からさようなら。

 意識が遠のいて眠りに落ちた。タオル地の掛け布団を胸元に引き寄せて、朝日が出迎えにきてくれた。