コンテナガレージ

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今日からよろしくどうぞ、不束者ですが2-1

「ビルの屋上で発見されたらしいよ」

「昨日の夜と言えば、停電があったわね。不慮の事故に巻き込まれたって、私は聞いたけど」

 二人の女性が話す。変則的なつくりの喫茶店に彼女たちは休憩時間に顔を付き合わせる。稗田真紀子は無断欠勤した自分の上司について、顔をつき合わせる情報交換に時間を割くべく、食事を軽めに無理やりに切り替えて同僚の真下眞子を誘った。階段下の席を稗田は案内係の女性にこちらの席に座りたいと、要求を促したのだ。

「どうもねえ、そうじゃないらしいよ。部長は、ほら、若い子と関係があったって目撃談にそれからさあ、誰だっけ、二人で歩いてる写真も見せてもらったし……」稗田真紀子の言葉を真下眞子はあっさり躊躇なく遮る。

「仲たがい、恋愛関係のもつれで亡くなっていうの?」

「殺されたのよ、間違いないわ」

「それってつまり、駅前店の従業員の中に犯人がいるってことをいいたいの?」冷ややか、真下の口調は落ち着き払っている。少しは驚いて欲しいものだ、と真紀子は導いた推理に自信があった。非日常性に隠れた身近に犯人は潜む、いつか読んだミステリーの解説文に学者先生が物語りの講釈をそうやって垂れていたのだ。けれど、私の日ごろの態度を正面に座る真下眞子は観測しているわけで、日常の振る舞いが相手に与える印象は多大なウエイトを占めることに、私の推理はつながる。よって、私はあまり信用に値しない発言及び言動を振りまいている、と観測ができてしまう。悲しい結論。

「驚かない?結構考えたんだよ、お客が途切れた数分の間に」

「予約の問い合わせがひっきりなしだったのに、よくそんな暇を見つけ出せる」皮肉を真下はたまに口にする。後輩たちはそれを非道で不条理、とも影で言っていたが、真紀子には事実を丹念に体にしみこませた発言だと、理解できる。真下は仕事は完璧にこなす、お客の応対も接客においては駅前通り店、S市、全国を含めても五本の指に入る知識とお客に合わせた会話の速度、内容を改変を難なくこなす。対して私というと常設の応対は一つの形と決め、機器やサービスに関する専門的な説明を求められた場合にのみ、隠した知識の披露に踏み切るのだ。省エネというやつである。そのため、お客へはある程度予備知識を持った相手と見なして応対を行う。この差が二人の余裕の違い、と彼女は推測し、わずかに微笑んだ。