コンテナガレージ

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今日からよろしくどうぞ、不束者ですが2-2

 コーヒーが運ばれる。クラシカル、長方形に取っ手のついた銀製のトレーからカップが置かれた。恭しく店員が去って、稗田はその反動を使い周囲を盗み見る。彼女の背後にはガラスの壁面に沿って席が並び、青く包み込む天井までのガラス内部に魚が泳ぐ、喫茶店に不釣合いな水槽が置かれる。この店はデートに利用されるため、カップルが平日の昼間でも多い。一人身の真下には耐えられない光景だろうか、稗田はふと同僚の私生活、その背後に鍵をかけて呼びかけてもまったく無反応を示す真相を心配した。

 二人は年齢の違いこそあれ、同期入社、同僚たちが結婚や出産の人生のイベントごとで退社していくなか、残った唯一無二の戦友と稗田は思っている。しかしだ。彼女は後ろめたさ感じていた。だって、私は一応結婚はしている。おととしに知り合いの紹介で夫と出会い、一緒に家庭を築くことを約束した。もちろん、四十代という年齢もあって子供のことは夫は何も言わない。欲しいのだろうけれど、それは私が決めることだって、言ってくれた。贅沢。そんな私が、真下眞子に心配、気にかけている態度はおそらく癇に障るはずだった。ごめん、胸に手を当てて彼女は謝る。具合が悪いように真下からは映るだろう。これも普段の私が快活なせい。

 真下の白い腕が、チューリップの花びらを思わせる外側に開くカップを口に運んだ。

 エレガント。久しぶりに頭に浮かんだ単語。

 モテなくはない。彼女は幾つも誘いを断る、お客の勧誘では一番人気の後輩よりも名刺を受け取る率も高く、しかも彼女は女性客、主に高齢の女性たちからの指示が厚いのだ。私にはそれなりの容姿であったり、性格や仕事を続けるこだわりがあって、適齢期には良縁に恵まれなかった。しかし、真下眞子は引く手あまた。一人身を貫く、仕事を優先したい特殊な理由が、彼女の性格と今ひとつしっくりこないでいた。

 軽食が運ばれた。先ほどとは別の今度はウエイター。若い男性特有のすらりとした無駄のない上半身、露出した首元に視線を合わせて、早急に悟られないよう稗田は皿に乗ったサンドイッチを待ちわびたように注視した。ウエイターが去って、ほっと息を漏らす。