コンテナガレージ

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不躾だった私を、どうか許してくださいませ3-9

「不均等だから約束なのよ。平等だったら、結ぶ意味がない、違って当然」真下は首を傾ける、振り子時計を見上げた。「時間に遅れると思う、出たほうがいい」

 まずい、稗田はすっかり休憩時間を忘れた。いつもならば、秒針を刻む針の音が取り付いていたのに、真っ白に視界がブラックアウトしたかと思う、その刹那に映像が復帰、休日の朝にパッチリ冷めた気分だ。

「お釣りはいらない。今日は私おごり」

「そう、一食分浮いた。一人身には食事代の節約が生活の幅を広げるの。数百円でも、×二十五日では、相当の金額。また、端数が生じる小銭、主に五円や一円もそれこそ、取り扱う銀行のATMが気前よくお金として認識をしてくれる」

「話はまた今度聞くから」掌を向けて、中腰から立ち上がる。財布をきっちり小脇に閉めて席を立った。店の中央、ボックス席の境目で振り返る。彼女はこちらをもう見てはない、興味は食欲に向けられる。

 生き物に見えた彼女だ。食らい尽くす、一欠けらも残らず、向かえた口にフォークを運ぶその仕草は慣れしたんだ習慣の成せる業。支店長と、外食を重ねたのだろうか。職場に戻る道すがら、稗田は考えを続けた。

 私は過去の付き合い。旦那と出会う以前の健全とはいえないけれど、誘われた。だって、そろそろ結婚生活を終えるつもりだから、と支店長は打ち明けたのが、親密な関係を結ぶきっかけ。

 駅のコンコース、日中でも日の当たりの悪いコインロッカー、一群を通り過ぎる。観光客、外国人が多数見受けられる、最近では何かと日本がブームらしい。クールという言葉では呼ばれなくなったものの、異質な文化圏としての認識は依然として高まりつつあるのだ。店のカウンターで道を尋ねるのは外国人がほとんどだ。

 彼女の靴が床を打つ。小走り、地下を目指して、大勢の通行人が吸い込まれるエスカレーターへ駆けた。概算で所要時間をはじき出す、エスカレーターに飛び乗り、地下へ。もわっと、むせ返るような熱気が出迎える。雨の予感。折り畳み傘はロッカーの棚に置いてある、帰りは濡れないといいけれど、支店長や休憩時間内の到着はなんのその、身近な心配事に心模様は移り変わっていた。