コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

今日からよろしくどうぞ、不束者ですが3-3

「迷惑だよね、私。足手まといだもんね、そうだよね」席についた途端、彼女は俯き、言葉をしかしはっきりと言い放つ。涙がこぼれた場面を目の当たりにしたのは、いつ以来ことだったか、金光はそっとハンカチを取り出して、手渡す。

「今まで尋ねるのは失礼だと思って、躊躇ってたのは感じていたと思う。その、なんだ、目が見えなくなったのは、なんというか、病気かなにかの影響で病状が悪化したのかな?デリケートな領域だから、聞きづらくって……」後頭部を金光は掻く。駅前に抜ける比較的低層の駅舎の上空、青々とした空とは裏腹に通行人は広範囲に数人、直立不動の植林が強風に負けじと、風に逆らう。

「うん、それはいつか言おうと思ってた。だけど、……はっ」彼女は水色のハンカチを目に当てた、肩が持ち上がって息を吸い込む。「も、もう少し待って欲しい、気持ちの整理がついたら話すわ。それまで、お願い。今は、いえないのよ。事情があるの。だから、ね、くっん、おねがい……」

「いいんだ、いいんだ。強制してるわけじゃないからさ。うん、とにかく落ち着こうか、ねっ」

「うん」

 黒髪、ポニーテールのウエイトレスがコーヒーを運ぶ。金光は中腰になり、彼女の手にカップとソーサーの位置を知らせた。熱いから、やけどに気をつけるようにとも、近づいたその体温の放射が感じられる距離で言い添えた。

 たわいもない話、先週の仕事先への移動で起きたハプニングや連絡の不備がもたらした緊急事態にチケットを取って最終便の飛行機に飛び乗れたことなど、金光は淡々と喋った。彼女の呼び出しの理由は大よそ予測がついている。二人の関係の再確認を彼女はたぶん、いいやほぼ間違いなく要求してくるに違いなかった。決意の表れは、外出だ。ただ、僕は視覚を失った、だから彼女と別れた、という見え方は避けておきたい。できれば、あいまいなこの関係を続けられた、これが金光の理想。それに……、僕だって独身の男。一人の女性と向き合う法令は既婚者に当てはまることであって、彼女以外の女性と親密な関係を築く、付き合う前の段階を現在の相手との別れ際に行動に移しても、許されるべき、誰だってそういて一人の回避に奔走するのだから。とはいうものの後ろ髪を引かれる、業界の噂と彼女の父親の存在がちらつくからさ。