コンテナガレージ

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今日からよろしくどうぞ、不束者ですが3-4

 金光はにこやかに笑顔を振りまいた、彼女は見えていないのにどうしてか、機嫌を取りたくなった。観測するに自分の態度を肯定したいのだろうな、彼はコーヒーに口をつけた。コクのある酸味は淹れたて出来立てから徐々に酸味を加速させるんだ、出会った当初の彼女との関係のように……。

「昨日は、仕事だったの?」器用な彼女、添えた左手はまるで見えているかのように自然だった。

「ああ、うん。まあね。半分仕事で半分は遊びの要素も含まれている。定期的に開催するキッチンスタジオを個人的に借り切って、新作の考案に励んだ。うそじゃない」

「誰も疑ってないわ。夕食は一人で?」

「君と食べられないんだ、一人に決まってる」

「そう、そうか、そうよね」

「……誰かから、何か聞いた?」

「何かって?」

「いや、そのさあ、僕がどこで何していたのか、君に伝える人物がいるのかなって」

「考えすぎ。私、そこまで嫉妬深くないもの。嘘か真実かの判断だって、声を聞いたら判断できてしまえるもの」彼女の態度が強気の姿勢に移行しつつあった。確信を得た女性の攻勢、かつてそれに金光は負け続けた。間違いない、彼女は昨日の出来事の一部始終を知っている。

 コーヒーを一口、二口。金光は天秤にかけた、貫き通す嘘と傷つける事実。

 がしゃん。明白だ、天秤皿が壊れるほど片側が均衡を破った。彼は丸みを帯びた言葉を選ぶ。

「隠すつもりはなかったんだよ、それをまずは理解して欲しい。あの人は、生徒だよ。セミナーの生徒。他の生徒も大勢いた中の一人さ。やましい関係だなんて、思わないでくれよ」弁解がましい口調だ、自分でもおかしくなるほど、しどろもどろ。喫茶店とは、テーブルごとに込み入った事情からたわいもないやり取りまで多種多様と思っていた、まさに自分がそのもっとも縁遠い込み入った事情の当事者となろうとは、金光は困惑した表情を浮かべて、彼女の返答を待った。