コンテナガレージ

サブスク・日常・小説の情報を発信

今日からよろしくどうぞ、不束者ですが4-6

「交渉は決裂、ですか。残念です。これから一週間、新商品の発売はS市の日本一号店に限定しています」林は立ち上がって、種田の左手、奥のデスクに移った。フィルター、透明な筒をデスクから掴んで咥えた。カートリッジ式の香りを愉しむ、やや葉巻に近い、しかし煙は一切排出しない煙草、葉っぱの塊を彼は吸い込む。青い藤を配したTシャツが膨らみ、しぼむ。「商品の在庫は予約と店舗販売用が倉庫に収まる。行列のほとんどは予約客の列、一般の販売客は販売個数を知りません。二台ほど、私が自腹で商品を購入したとしても、問題はない」

「つまり、私たちを買収する。その代わりに、あなたの要求の飲め、ということでしょうか」鈴木は唾を飲んだ。そして、種田に囁く。「僕にはかなり魅力的な提案にさあ、思えてならないんだけど……」

 種田は一瞥。鈴木はさっと諦めた表情を浮かべた。無論彼も本心ではない。私はデスクに右手をつく林を見下げるように見上げ、射抜くように見つめた。

「他の警察関係者にも同様に持ちかけたのですか、あなたは」

「私は日本支社代表の権限を持って、在庫の商品を自費で手に入れる可能性を表明した。それならば、はい、大勢押しかけた皆さんにお伝えはしました」流暢な喋り方も可能なようだ、初対面には片言にわざと価値を下げていたらしい。仕掛けは既に始まっていたのか、種田は厄介な交渉相手、と林を捉えなおした。ともすれば、S市よりも扱い辛く、しかも狡猾。

「端末は現在のもので間に合います。利用が不可能になるまで、私は電話というものは大よそかかってくる代物である、そのように認識を続けるでしょう。よって、いくら外装が変わろうと、電話である以上私の中では底辺に位置する。交渉相手を間違えましたね」

 鈴木の囁き、吐息の割合が高い。「発売直後の商品がタダで手に入るチャンスって、わかってんのかぁ」

「私は死体のトリッキーな搬出にあなたたちが呼ばれたと思い込んでいましたが、どうやら検討違いは私の方だったようだ」林に高い位置の窓、縦格子の影が這う、彼は腰に手を当て、こちらに背中をみせた。

「現場を拝見します」種田は音もなく腰を上げる。

上着の上からでも構いません、このTシャツを着て上がってもらいたい」彼は振り向く。「それぐらいは守っていだかないと」