コンテナガレージ

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今日からよろしくどうぞ、不束者ですが5-6

「必要以外、私は端末を利用しない」はっきりと間違いを彼女は訂正する。

「一般的な意見だよ。お前……じゃなかった、種田は例外中の例外」鈴木に対して、上司やもう一人の先輩に対しても種田は常に自分を名前で呼ぶように求める。男性的な呼び方は嫌う、ということではない。お前と種田の文字数は同じなのだから、名前で呼ぶべきだと考える。おそらく女性差別に要因があるのだろう、鈴木たちは思っているはずだ。思わせておけばいい、訂正はしない。彼らは私ではない。

「こちらの船体が昨日の午後九時ごろS市上空を飛んでいた事実をあなたは、どのように判断をされるのか、意見をお聞かせください」種田は視線を飛田に向けた。ほぼ正面に彼が立つ。

「……否定はできない。飛んだのでしょう、写真がそれを証明してます。ただ、この倉庫から持ち出された船体と言い切るのは、難しい。だって考えてもみてください。夜間の出入りが制限されていたとはいえ倉庫内に隠れて潜んでいて、夜になり、倉庫を中から開けたって考えてもいいでしょう?」飛田は気分が高まると手振りが多くなるらしい。

 倉庫内は身を隠す場所は多く、ぱっと視線を周回させただけでも、キャットウォークの隅やビニールシート、壁にくっつく作業台の下、山と詰まれたダンボールならば、半日程度は耐え凌げるか、彼女は思考を走らせた。さらにだ、種田は振り返る。ガレージの扉の脇のドアは当然内側から外に出られ、飛行船を引き戻し格納後は、内から鍵をかけ、船体の通り道である引きあがった扉は予測するに適度な速度で床とコンタクトを取るのであるから、扉が降り切る間に屋外に出れば、両方の出入り口の扉は飛田が帰ったときの状況に戻る。つまり、飛田が知らなくとも、出入りの可能性も十分に考えられるんだ。しかし、飛田はプレハブ小屋でネット上にアップされた写真は自らが所有する機体だと、証言をしていた。ただし、倉庫内から持ち出されたことが証明できるとするならば、……待てよ、私はなぜ、上空で写された飛行船を探しているのか。

 ああ、そうだった、飛行船の操縦者の目撃証言を得るため。現場周辺の捜索はS市に禁じられてしまったのだった。

 種田は返答を待つ飛田にそっけなく言った。

「そうですね」飛田の表情はにわかに曇りの様相、次は彼の目に雨が降ってしまうかもしれない。面倒だ、女性よりも男性のそれをみっともないと世間は感じるらしいが、種田はまた別の意味合いに解釈する。泣くことが泣くことをよしとする映画館や物語を眺める場面での許容の説明が不十分である、と感じているからだ。

 間をつなぐために、不穏な雰囲気を察した鈴木があざやかに質問をぶつけた。

「北海道飛行船協会が会社の名称ですけど、他に船体を所有している団体やグループはありますかね?」