コンテナガレージ

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お手を拝借、今日はどちらに赴きましょうか?5-1

 汗ばむ陽気に滴る汗、そうかと思えば日陰に入ると寒さが肌を刺す。青空たちは上空から手を振っているみたいで、その実、体に変調をきたす取り計らいをニヤニヤ薄ら笑いを浮かべて、風を送るんだろうか。店主はランチの仕込みに一区切りをつけ、煙草を吸いにワンブロック先の川辺のベンチに腰をすえた。

 季節の変わり目に引き起こる不具合は、その後の季節への対応を試しているのだろうし、そのままでは乗り切れない、ふさわしい体ではない、という警告に店主は思えた。市民ランナーが川べりを走り去る、風を味方につけた、気分爽快をはるかに上回った細胞の劣化。精神の安定剤には有効な手段ではある、何せ、呼吸を整えるときに抱える悩みについては一時的に脇へ場所を移すはずだから。

 移転先について、三名の訪問者が帰ったあと、従業員たちに事情を打ち明けた。ただし、国見蘭のみである。他の二人はことの経緯を店内で聞いていたのだ。厨房の二人は移動に賛成、対してホール係兼経営担当の国見に屋外みたいな晴れ間は訪れなかった。僕の性格をよく理解してるのは、やはり彼女らしい、と改めて思った。まだ、三人には、何故選択を受け入れたのか、理由の説明は保留にし、各自もどちらが店にとって、お客にとってベストな選択であるかを考えるように一週間の猶予を与えた。返答の期限は来週である。三名が訪れたのが金曜日、今日は週があけた月曜日。

 忘れてた、店主は目的である煙草に数分座ってやっと火をつけた。もちろん、ここは喫煙場所として認定されたベンチである。真横には円筒形の灰皿が置かれている。川のせせらぎに耳を済ませる、遡上の鮭は今年も跳ねる姿をもうじき見せる頃だろう。この時間はわざとらしく静かだ。車が背後では通り、だけれども時折ぱったり風が止んだ時に似せて、音が途切れたりする。

 煙草を一本灰に。さらに一本を取り出して、火をつける。風が強く、火がかき消された。