講釈がようやく途切れた。宇木林は豪快にカップを傾ける、喉が鳴った。彼の話をまとめると、建物の改修期間に店の形態を一時的に変えるように、そのサポートを名刺に書かれた飲食経営事業を生業とする彼らの会社が買って出る、ということ。つまり、どこかに店舗を移して営業をこちらに続けさせるたくらみだ。彼らのうまみは、こちらの集客力だろう、店主はわざと思い悩んだ態度を表した。ぶっきらぼうに無関心、傍目からその内情を観察可能なほど、一般的に困惑を作り出した。尖った口元がその代表例。
見せつけておいて、その間に明日のランチを考えるとしよう。
冷蔵庫には何が残っていたっけ?
うまく映像が展開されない、考え残した問題を探る。
顔を出したのは、甘いドーナッツ。
甘さに引っかかったのだ。連想。どこからだろう、思い出した、テーブルの端を指先でタッチ。コーヒーの紙袋だ。そうか、自分だけが食べるとも言い切れないのだ、行列が出来上がるのは毎日の光景。五人に一人ほどの割合で、まとめて五個から十個を購入していくお客の存在を引き上げる。これは同じ職場で食べるのだろう。では、お土産にランチを手渡し、そこで食べるお客はどの程度の潜在数か、何はともあれ、甘さに引っかかり、思いついたのだ、試してみるべき。
三人は沈黙が僕によって断ち切られるのを待っているみたいだ。
もう一本に火をつける、珍しく日に二本の喫煙だった、味覚が鈍くなるからという理由で控えているのではないし、病気への危惧やその先の死の意識などはもってのほか、僕はたんに不要な不純物を取り込む体の抵抗を感じたいのさ。
「樽前さんのコーヒー」一同の視線が店主に集まる。「複数の店舗を一箇所に集めた飲食施設の構想に、手軽さのコーヒーによる活気ある印象と、私の店の行列を、開業の目玉に据えたい、それがあなたの狙い。不動産は桂木さんの管轄、最も得をする可能性の高い宇木林さんが積極的にこちらの二人を集めたのでしょうね」
「話が早くて助かります。どう思われようと、ええ、経営は自社の利益の追求です」満足げに宇木林は顎を引いた。
「おい、おい、おい、おーい!」左となりで沈黙を貫く樽前が会話を割って遮る。「新装ビルの目玉はうちのコーヒーだって言っていたのに、なんだよこれは、誰がみてもここの店が主役にしか聞こえない」