コンテナガレージ

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お手を拝借、今日はどちらに赴きましょうか?1-5

「私はお断りしたんですよ、信じてください。どうしてもと、おっしゃるもので、仕方無しに、なくなく……、私も折れた側です」

「では、やはり樽前さんが場所の指定を?」

「違います」樽前は首を竦めて、二度顔を往復。

「噛み合いませんね」

「いやはや、みなさんお揃いで」加えてもう一名、今度はひげを蓄えた背の高い男性がドアの前に立つ。クローズの看板は続けざまに目に入らなかったらしい。三番目に足を踏み入れた男性の一歩は堂々の振る舞い、店内を窺う謙遜は微塵も感じられなかった。

 最後に入ってきた男性は宇木林と名乗る、彼は僕に名刺を渡した。

 三名をホールのテーブル席に店主は案内、とにかく事情の把握のため、残りの二つの飲み物は樽前の許可を得て、不動産屋の桂木と宇木林に振舞う。樽前にはアイスティーを運ぶ。小川が気を利かせたのだ。

 丸テーブルの正面に宇木林、左に樽前、右に桂木が座る。宇木林は僕の手元を二度盗み見た、タバコの煙を好む人物の目ざとさだった、嫌悪の態度を示す人物であれば、あからさまに顔を背けるか、表情に皺が寄るのが、通例である。

「宇木林さんでしたか、店は仕込みに充てる、そのため閉店だ、ということをお忘れなく。従業員の休憩も兼ねていますが、私は終日稼働を行うので、端的にお話いただければと思います」店主は正面の人物へ率直にまだ腑に落ちない、移転の経緯を尋ねた。

「お話は早いほうが双方のため、若干強引な態度にとられても、内容はそれを上回ります」

「回りくどいですよ、今ので十分、本題をどうぞ」煙を吸って、店主は言い返す。その前置きを省け、というニュアンスには伝わらなかったらしい。取り留めのないマイクを通じた演説が染み付いているんだろう。

「これは失礼を」宇木林は余裕をもって節くれ立った指を組み、軽く握った拳を口に当てた。空咳。「ことの発端は、桂木さんがもたらすこちらの建物の改修でした。耐震性の問題がクリアにならなかったようです、新しく改正された法律にこの建物は抵触してしまうらしく、現在の建物の営業は今月が最後」

「桂木さん、事実ですか?」冷淡な口調で店主は尋ねた。

「なんと言っていいのやら、……事実は事実です。こちらとしましても契約を済ませた後に発覚したことでして、契約時期には法改正が議題にすら持ち上がっていなかったというので、言い訳になるかもしれませんよね、はい」