コンテナガレージ

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お手を拝借、今日はどちらに赴きましょうか?1-8

 明瞭な裏と表の表出は珍しいといえるか、店主はものめずらしく樽前の変容を目を細めて眺める。

「二つの店を看板に据える、これがコンセプト。樽前さん、本気でその、これは申し訳ない」宇木林は笑みをかみ締める。「私がプロデュースを手がける商業ビルの改築、開業、集客力をあなたは重宝するはずです。しかし、飲み物だけでは、しかもテイクアウト専門となれば、建物を通路のようにお客は利用してしまう。それでは、当然施設内にお客を誘導し、お金を落す経路の確保には不十分だ。呼び水、というのは聞こえが悪いかもしれない、ですが、それは裏を返すと、はい、あなたの店を心から賞賛している、私はそのように受け止めています」演説みたいだ。教鞭をとって、丸く生徒たちを押さえ込む話術。人前で話す機会が多いのだろう。

「私はね、まだ開業、間もないのです!」樽前が立ち上がる。勢いよく、椅子が倒れた。

「だから?」私は椅子の名誉を思って、口を開く。樽前のまっすぐな感情に満ちた視線を受け取り、続ける。「アドバンテージを泣き言、思わしくない経営状態、立地の悪さと乱立の競合店、気温、日時、日付などに頼っているのでしたら、即刻店の経営からは手を引くべきです。私が成功しつつある事実を踏まえる体験を押し付けようとは思っていません。ただ、経験は店を開き、物を売り、それらの継続にのちに腑に落ちる。何もありませんよ、現在の手もとは、スカスカ。あなたなりのノウハウをもしも、頭に描いているのだったら、即刻捨てるべきと私は思います」

「借金がまだ残っていますよ、商売は軌道に乗りかけてもいない。お客はつき始めました、だけど、この先、将来、数ヵ月後、来年はまだ見通しはよくありません」

「どうしたらいいのか、何をすればよいのか、手をこまねいているように私の観測はあなたをそのように捉えてはいない」二人の年上たちはじっと息を潜め、話を聞いている。

「必死でお客の好みを探しまくってますからね」迫真の演技、樽前の睨みがきつい。

「宇木林さん」店主は話を振った。

「はい」彼は眉を上げる。

「資金面のバックアップ、あるいは開業資金やテナント料の優遇などの措置を取っていますね?」

「是非にとお誘いしたのは、私たちの側です」

「だ、そうです。どうやら、あなたは自分で資金を一から調達しようと思ったのですね」わけがわからない、怒りの矛さ先が段々としぼんでいく樽前の気迫が取り払われたようだ、彼は色白の顔に模様替え、いいやデフォルトに戻った。

「……ええっと、ですね、僕はその、とてつもない、勘違いをしていたってこと、ですかね?」