コンテナガレージ

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不躾だった私を、どうか許してくださいませ5-10

「はい、いつもなら、この蓋は取り外して飲みます。慣れないことはするべきではありませんね」はははと、僕はごまかして笑う。

「……温かいパン、これがお客の求める商品ですよね?」宇木林は几帳面な性格の表れか、紙袋を降りたたみながら、視線をはずして雑誌に映るモデルのごとく街路樹、低木、僕の膝辺りの高さを見つめる、いいや見入ると言った方が正解。

「冷めたパンをあえて買うのは、安さ以外には検討もつきませんよ」

「食パンやフランスパン、ああ、最近はバゲットと呼ぶのでしたね、そういったハード系のパンを保管し、翌日、あさってに食べるのは主にですけれど、家庭を持つ主婦の方が買い求めるのでしょうか?」

「ううんと、僕に聞いてます?」

「まさか、目を見て話さないと大人に習った押し付けをまだ、忠実に守ろうとなさっているのでありませんよね?」

「……いえ、その、どこか上の空にあなたの眼差しがみえたものですから」

 宇木林は屈めた腰を引き上げた、列が動く。それでもまだ、店は先の先。建物の上部、神殿を思わせる外観は視界に捉えているものの、まだ後方の交差点を渡って二メートルほどの移動距離だ。夕方、暗くなる前にはどうにか、目当ての商品、プレゼントの新商品を手に入れたい。

「新商品の開発期間を短期に設定し、その間に店の内装や応じた器具の配置、使用する大型の設備の打ち合わせを同時平行に行う。こちらのコンセプト、私が認定した商品を店頭で作り、販売を行っていただく、これが出店の条件です。無論、現在手がける料理教室は取りやめてもらいます。まあ、受講料は一回ごとに徴収するシステムをとっているようですから、その辺はスムーズにこちらの計画に移れるでしょうし……」

「誰も引き受けてない」多少強引な話の展開を金光は嫌う、自分勝手、どこかに自分を映した宇木林に反発心が生まれたのだ。「あなた、少しこちらの気持ちを汲む配慮が欠けてる。大体、押しかけて隣並んで、名刺を渡して、それって非常に常識を欠いた行動に思えます」