コンテナガレージ

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お手を拝借、今日はどちらに赴きましょうか?6-1

「こんばんわ」ハンカチで頭部と肩口、それから上着のスーツに弾かれた水の玉を払う。駐車場を降りた途端に降り出した雨にかち合い、鈴木が雨男と雨女の話の起源は作物に生育に欠かせない雨が昔は重要視されて、そこに雨を降らせる儀式の印象が引き継がれて、現代では晴天を望む特別な日取りに雨が降るとその場の人間、傾向として女性が降雨の要因という不確かな烙印を押される、ネガティブな印象に雨が摺り替わった形で受け継がれた、と断定をした。種田はその持論に肯定も否定もしなかった。話が途切れた信号の横断にこれまたタイミングよく雨足が強まったので、返答の機会を失った、ただし、答えずに足を進めた理由は彼女は用意してはいた。

 お客を迎えための明かりが灯るこの洋食店へはしぶしぶ訪れたといえる、常夜灯がオレンジに、雨を伴ってぼんやりと光る。訪問の理由を述べると、一つは事件当夜の目撃者の来店の可能性、二つは頼りたくはない、ある人物の代理に最適だったから。そもそも意見を警察以外に求める行為を種田はまだ認めていないのだ。

「こんばんわ」口を覆うカップに隠れた顔で静止、店主は喉を鳴らして不用意にコーヒーを飲み込み、迎えた。室内、店内の席はテーブルにひっくり返り、午後十一時の時間と状況が店じまいを教える。

 鈴木が前に出て、彼女を押した。外の雨が入り口付近まで張り込むほどの風。なだれ込むように二人は入り口で案内を待つお客の気分をかもし出した、これで少しは相手が譲歩してくれるだろという、鈴木の甘い考えに種田は乗った形だ。一瞬にらみをきかせた。それでも鈴木はこうするしか方法がない、なにか代替案があるのか、いつになくしっかりと、しかしこの演技を愉しむようにも見えた。

「どうも、O署の鈴木と申します」

「以前に一度、お見えになった方ですね」

「覚えてくれてましたか。それは、話が早い」店主は鈴木の歩み寄り、にじり寄る接近に気がついた。もっとも、ドアを潜った時点で私たち警察が登場した状況をこの店主が先の展開を予測に挙げないわけがない。