ベルが鳴って、最後尾の車両、側面、ドアの上部左端の赤いランプが消えた。視線を感じる。乗り遅れた、浅はかで残念な人、降りた乗客に映った印象が私たちに統一されたらしい。おもしろい。他人の思想が如実に、しかもありありと覗けるとは。思ってもみない。意識は伝播するようにも感じた。簡単なのだろうか、想像することが……。
引き返した鈴木が苦笑い、テレを隠して頭を掻いた。
「鈴木さん、PCは持っていましたか?」
「ああ、昨日買った大画面の端末ならあるけど」地下鉄の残響、キュルキュル。
「私が話します、それを打ち込んでください。どこかでプリントアウトも」
「覚えていられるだろう、それぐらい」
「私だけが覚えていても……、鈴木さんのためです」
「あっ、そう。もっと優しくいえないかな、そういう配慮は」
「内容に変わりはありません」
「だろうね」
「はい」残響が消えた、足音が一つか二つ、隙間を縫って、幅を利かせた。